4月の全日本選手権覇者の村上茉愛(24=日体ク)が18年大会以来3度目の優勝を飾り、2大会連続となる東京五輪代表を決めた。全日本の得点を持ち越し、ミスは出たが合計168・030点で後続の追随を許さなかった。2位の畠田瞳(20=セントラルスポーツ)、3位の平岩優奈(22=戸田スポーツク)、4位杉原愛子(21=武庫川女子大)が団体総合メンバーに決まった。3位までは自動的、4人目はチーム貢献度で選ばれた。

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五輪切符がかかった試合を4日後に控えた11日、村上は笑顔で写真に納まっていた。妹の成人式に合わせ、母英子さんと3姉妹での記念撮影だった。試合直前、母が控えめに声をかけると快諾。貴重な家族の時間を共有できた。5年前のリオ五輪の選考会前なら、こんな笑顔はなかっただろう。「まだメダルを取れるところまで実力はなかった」。代表入りに神経を注ぎ込み、19歳は必死だった。今は「代表に入るのは大前提」。

1つの悪夢を乗り越えていた。19年、全日本からNHK杯への練習で、腰を痛めて大会を欠場。世界選手権代表から漏れた。この1カ月、「そのことがトラウマでフラッシュバックしてきた」。忘れるには練習しかない。「これ以上、気負っていたら体がもたない。楽しまないと気がおかしくなる」と思い定めた。「楽しむ」の言葉を胸に、家族の誘いも一助だっただろう。

2種目目の段違い平行棒。トカチェフで左手がバーから離れるミスには「ヒヤッとしたけど、素に戻れた」と残り2種目をまとめた。「楽しんで、自分らしい演技できた。それが伝わったら良い」と誓いを体現した。直前に痛めた左脚に違和感はありながら、まとめきったのも実力だった。

優勝者インタビューでは「ケガがあったりとか、すごく長かったんですけど、自分の体操が好きとあらためて分かることできたし、一から競技力も人間力も見直せた」と涙を拭い、言葉は強かった。完治も見通せない2年前、「早く茉愛ちゃんの演技が見たい」という応援の声が力になった。

自身のインスタグラムでは今、平均台の演技写真をプロフィルにする。東京五輪では、個人総合、団体総合、床運動に続き「メダルを取りたい」という種目だ。その演技姿は「元気いっぱい」な従来とはひと味違う、艶やかさもある。「はい上がってきたのは大きな原動力」。世界選手権で史上初の個人総合銀メダルを手にした18年より、技術も表現力も磨かれている。【阿部健吾】