サッカー現場発

最後1分の怖さ知った磐田大南が五輪代表へ着々進化

川崎F対磐田 試合後、サポーターにあいさつするDF大井(中央)ら磐田の選手たち(2018年12月1日)
川崎F対磐田 試合後、サポーターにあいさつするDF大井(中央)ら磐田の選手たち(2018年12月1日)

東京五輪が来年に迫る中、日本代表への道を突き進んでいる若きセンターバックがいる。ジュビロ磐田DF大南拓磨(21)だ。プロ3年目の昨季、11月のサンフレッチェ広島戦で先発チャンスをつかむと、そこから最終節の川崎フロンターレ戦まで4試合連続でスタメン。川崎F戦で、一瞬の怖さを思い知った大南は今季、その苦い経験を糧に変え、最終ラインで体を張り続けている。

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18年12月1日、等々力競技場。最終節は、既に連覇を決めていた川崎Fと、引き分け以上でJ1残留が決まる磐田の対戦だった。大南は3バックの右で先発し、リーグ最多得点を誇る川崎Fのラストパスや仕掛けを、対人の強さを発揮し防ぎ続けていた。90分を終えて1-1。このままいけば、磐田の残留が確定する。しかし、それで終わらないのがサッカーだ。ロスタイム。川崎FのMF家長が敵陣左サイドでボールを受けると、大南のマークを振り切りドリブルで仕掛けグラウンダーのクロス。これが磐田のオウンゴールを誘発し、川崎Fが劇的勝利を収めた。磐田は16位に転落し、J1参入プレーオフに回ることになった。

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結果的に、磐田はプレーオフで東京ヴェルディに快勝し、今季もJ1を舞台に戦っている。今年2月の鹿児島キャンプで大南に、川崎F戦の「一瞬」について聞いてみた。

大南 J2に落ちなかった今、いい経験だったと言えるのは良かったですけど…。あの一瞬は、周囲のサッカー人生を変えてしまうというぐらいのミスをしてしまったと。しばらくは、寝ていても目をつぶったら、そのシーンが出てきました。

臥薪嘗胆(がしんしょうたん)。何十回もその瞬間の映像を見返した。「(右サイドハーフの)渚(桜内)さんに声をかけて、もっと中に入ってもらえばよかった」「家長さんは左利き。体をかぶせて、右足に持たせればよかった」「飛び込まずに対峙(たいじ)していれば…」。後悔と反省の日々が続いた。磐田の仲間は「拓磨(大南)の頑張りがなかったらもっと失点していたと思う」と献身的プレーを評価し、ベテランFW大久保嘉人はこうエールを送った。「89分間、いいプレーをしても、最後の1分で痛い目に遭う。その怖さを知ったことが、これからの最高の薬になるはず」。大先輩の言葉に「必ず教訓にする」と誓った大南は、1分の重みを胸に新シーズンに向けて歩き始めていた。

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19年4月6日、BMWスタジアム。湘南ベルマーレ対磐田の試合で、再び大南のプレーを見る機会があった。当時、未勝利だった磐田は勝ち点3を手にしたい状況だった。1-0でリードしたロスタイム。湘南が自陣左サイドのロングスローから、カウンターを仕掛けた。湘南の途中出場のMF大橋が左サイドの裏に飛びだす。ロスタイムで疲労が蓄積された時間だったが、大南が、体力的にフレッシュな大橋のスピードに食らいつき体を寄せて並走した。

運命だろうか。昨年の最終節で家長に抜かれたほぼ同じ場所と、ほぼ同じ時間帯。大南は大橋をファウルで止めた。そのままペナルティーエリア内に切り込まれるか、クロスを上げられたら失点しかねないピンチだった。相手に好位置でFKを与えるリスクはあるが、いったん、プレーを止める意味でも、クレバーなファウルに感じた。失点が許されない同じ状況下で、同じミスは繰り返さなかった。

試合後、大南に最後の場面について聞いてみた。

大南 あの瞬間、一瞬、川崎戦がよぎりました。その分、中に行かせてはいけないと。中に入られるか、クロスを上げられるのが嫌だった。

昨年の苦い教訓をしっかり生かしていた。セットプレーになったのは「嫌な予感がした」というが、湘南はそのFKの場面で、GK秋元がゴール前にあがり、最後は磐田のスーパーカウンターを無人のゴールにたたきこまれ失点。磐田が今季初勝利を引き寄せた。

無失点完封勝利をもぎとったが、大南は「最後はやはり、セットプレーにしたのはダメです。奪いきるのが一番良かった」と反省を怠らない。21歳で、忘れられない経験をした若きDFが着々と進化している。東京五輪で最終ラインで奮闘する日が必ず来るはずだ。

◆岩田千代巳(いわた・ちよみ)。1972年、名古屋市生まれ。95年入社後、主に芸能で音楽を担当。13年からサッカーの現場に。現在は川崎Fなどを担当。

磐田対鹿島 後半、鹿島FWセルジーニョ(右)のマークにつく磐田DF大南(2019年3月30日)
磐田対鹿島 後半、鹿島FWセルジーニョ(右)のマークにつく磐田DF大南(2019年3月30日)

日刊スポーツのサッカー担当記者が取材現場の空気を熱く伝えます。

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