スペイン1部リーグ第23節でバレンシアを3-0で撃破したヘタフェが、ついに3位にまで浮上した。ここ数年間、クラブ規模からは想像できないほどの大成功を収めているヘタフェだが、その功績にはホセ・ボルダラス監督の3年以上にわたる仕事ぶりが大きく影響していることは間違いない。

クラブが2部に降格していた16-17シーズン、22チーム中21位と低迷していたチームを第8節より率いると、最終的に2部リーグを3位で終え、昇格プレーオフを勝ち抜き、わずか1年で1部に復帰させた。

そして1部リーグ復帰初年度の17-18シーズンは、日本代表MF柴崎岳(現デポルティボ)が加入し、シーズンを8位で終えた。さらに18-19シーズンはチャンピオンズリーグまであと1歩というところまでいき、最終的に5位で終えヨーロッパリーグ出場権を獲得する躍進ぶりを見せた。

そんなヘタフェは今シーズン、リーグ戦開幕から4試合勝ち星がなかったものの、徐々に調子を取り戻していき、現在はレアル・マドリードと並び後半戦で唯一4連勝しているチームとなっている。国王杯は早々に敗退したが、ヨーロッパリーグではグループリーグを2位通過し、サポーターの信頼に応えている。

ヘタフェの今シーズンのサラリーキャップ(移籍金の減価償却費及び選手年俸)は、6378万ユーロ(約76億5360万円)と、1部リーグ20チーム中12番目と決して多くはない。

そんな中、3億4850万ユーロ(約418億2000万円)でサラリーキャップ3番目のアトレチコ・マドリード、1億8517万ユーロ(約222億2040万円)で4番目のセビリア、1億7711万ユーロ(約212億5320万円)で5番目のバレンシアをリーグ戦の順位で上回っているのは高く評価すべきことだろう。

さらに、6億5643万ユーロ(約787億7160万円)でトップのバルセロナ、6億4105万ユーロ(約769億2600万円)で2番目のRマドリードを追随している。

ヘタフェについては常々、「守備的でファウルが非常に多い野蛮で暴力的なチーム」「時間稼ぎが多くプレー時間の非常に短いチーム」などと、対戦相手からも含め、悪い評判が聞こえている。

しかしボルダラス監督は、この悪評が立つほどの特徴的なプレースタイルを貫き、2部で低迷していたチームをチャンピオンズリーグ出場圏内に入るまでのチームに変貌させたのである。

ヘタフェのプレースタイルの特徴は、前線からハイプレスをかけ、難しいことをせずシンプルにプレーし、ボールを奪い素早くカウンターを仕掛けるというもの。そしてプレーの流れを変えるためにロングボールを多用し、シュート力の高いFWに素早くパスをつなげている。

ボルダラス監督が選手たちに求めるのは「集中力を最大限に保ち、ボールに対して最後まで諦めることなく、高いインテンシティを持ち、ハードワークし続ける」こと。

そして選手たちは、時間を稼ぐタイミングを見極め、ゲームをうまく展開する能力にたけている。このようにボルダラス監督が意図することを選手たちが明確に体現していることが、現在までの結果へとつながっているのである。

また、ボルダラス監督はセットプレーを大きな武器としている。今シーズンのリーグ総得点35ゴール中、40%の14ゴールをその形から決めているが、これはスペイン1部リーグでトップというだけではない。欧州5大リーグを見渡しても、この得点数を上回るのは、ローマ、ユベントス、ラツィオ(17ゴール)、インテル、リバプール(16ゴール)、アタランタ(15ゴール)の6チームだけである。

そして1部リーグで被シュート数が最も少ないチームでもある。これまでに受けたシュート数は172本と最少で、20失点は4番目に少ない。これに次ぐのは196本(14失点)のRマドリード、215本(23失点)のセビリア、220本(19失点)のビルバオ、226本(28失点)のバルセロナ。

さらにヘタフェのプレーで目を見張るのは、相手陣地におけるパスのパーセンテージの高さ。今シーズンのリーグ戦で合計6783本のパスを出しているが、相手陣地でのパス本数は72・4%に当たる4911本(自軍陣地でのパス本数は1872本、27・6%)。

今シーズンはヨーロッパリーグに出場しているため選手層の薄さが懸念されたが、ボルダラス監督のローテーションの巧みさも、勝利をもたらす大きな要因となっている。中でもホルヘ・モリーナ、アンヘル、ハイメ・マタのFW陣は代わる代わる試合に出場してはゴールを決め、3選手で合計22ゴールをたたき出している。

アンヘルはリーグ戦でチームトップの9ゴールを決め、1部リーグの得点ランキング4位につけているだけでなく、長期負傷のデンベレの代わりとしてバルセロナの獲得候補の1人に挙がるほどになっている。8ゴールのマタはスペイン代表に招集されるまでに急成長し、5ゴールのホルヘ・モリーナは37歳とは思えないハイパフォーマンスを披露している。

ボルダラス監督は次のように語る。

「私は常々、プロフェッショナルとして、1人の人間として、そして仲間として仕事に取り組んできた。私は限界を設けたりしない。だから選手たちにも限界を設けることは望まない」

ヘタフェは2月20日、昨シーズン、欧州チャンピオンズリーグでRマドリードを破ったアヤックスとヨーロッパリーグのラウンド32で対戦する。わずか1万7000人収容のホームスタジアム「コリセウム・アルフォンソ・ペレス」にオランダの強豪がやってくるこの一戦は、ヘタフェの真価が問われるものになるだろう。

「限界を設けない」と語ったボルダラス監督率いるチームは今シーズン、いったいどこまで飛躍し続けるのだろうか。今シーズンの終わりが非常に楽しみになっている。【高橋智行】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)