プロゴルファーのタイガー・ウッズが交通事故を起こして重傷を負った。一報に内外で心配と激励の声が上がった。その中にプロボクシング元世界ヘビー級王者マイク・タイソン氏の名前があった。「子どもたちと世界のために、あなたらしく王者として戦ってくれ」とツイートした。

2人には共通点がある。米経済誌フォーブスが毎年発表する『世界スポーツ選手長者番付』で1位になっていることだ。タイソン氏は96年に7500万ドル(約85億)、ウッズは99年に4700万ドル(約50億円=レートは当時)を稼ぎ、ともに前年首位のNBAのマイケル・ジョーダンを抜いて頂点に立った。

時代の寵児から奈落へと転落した人生も重なる。タイソン氏は絶頂期に乱闘事件や交通事故を起こし、あげくレイプ事件で3年間服役した。ウッズは12年前に自動車事故を発端に複数の愛人の存在が発覚。無期限の活動休止に追い込まれ、家族とも離別した。ともに畏敬と礼賛の声が、軽蔑と非難に一転するという痛い思いを経験した。

マスターズでの復活優勝でどん底からはい上がったが、いまだ不安定でどこか危うい。そんなウッズをタイソン氏は自分と合わせ鏡のように感じていたのかもしれない。ウッズへの励ましのツイートは、世界王座復帰後も自制を欠き、迷走した現役時代の自分にかけているようにも聞こえる。

それにしても、リングの上で対戦相手の耳をかみちぎり、リングの外でも暴行事件を繰り返していた粗暴な世界王者が、人を心配して愛のこもったメッセージを発信する。何かをきっかけに荒廃した破滅への道から抜け出したのだろう。人は変わることができるのだ。思いがけないタイソン氏のツイートに、そんなことを考えた。【首藤正徳】

米ロサンゼルス近郊で横転したタイガー・ウッズの車両(AP)
米ロサンゼルス近郊で横転したタイガー・ウッズの車両(AP)
タイガー・ウッズ(2019年10月27日撮影)
タイガー・ウッズ(2019年10月27日撮影)