飛び込み競技は、最後に水に入り演技が完成することから水泳競技の1つとされているが、体操競技にも似た要素がたくさんある。

そのためシーズン中でも陸で行う練習も多く、基礎と言われる動きは入水技術の他にもたくさんある。冬場などのシーズンオフの時期には練習の大半を陸での練習に費やし、基礎を固めている。


■プールに入るまでのルーティン


だいたいの飛び込み選手たちの練習ルーティンを紹介しよう。

まずは柔軟体操やストレッチ、全身の筋肉に刺激を入れるための軽いトレーニングを行い、そのあとマットの上での宙返り練習やトランポリンを使っての空中バランスや宙返りの感覚を体に染み込ませる。そしてやっとプールでの練習が始まるというかなりの体力が必要となる競技だ。

その中でも飛び込み競技特有の頭から入水するという感覚を養うためにとても大切になってくるのが逆立ち技術である。

何の支えもない空中で自分の体の位置や角度を感じるためにとても大切な感覚だが、壁などを使わず立てるようになるまではかなりの練習が必要となる。

男子の場合、高飛び込みでは「1群(前宙返り)、2群(後ろ宙返り)、3群(前逆宙返り)、4群(後ろ踏切前宙返り)、5群(捻り)、6群(逆立ち)」の全ての群から選択した異なる6演技種目で構成しなければいけないため、必ず逆立ちから始まる種目を選択しなければいけない。しかし、5演技種目で試合をする女子選手は逆立ち種目が絶対に必要という訳ではないため特に日本では逆立ちを選択する選手は少ないが、世界の女子選手のほとんどが逆立ち種目を選択している。


■難易度上がるが0点も


逆立ち種目のリスクとして挙げられるのは、試合で逆立ちを1回立ち直しすると全審判から2点減点、2回立ち直しで0点となる可能性があるからだ。国際大会レベルでも、試合の緊張から立ち直ししてしまう選手はよく目にする。

私も引退する2年前に難易度を上げるため、渡米中に逆立ち種目に挑戦した。もともと逆立ちは苦手という事もあったが、高さに慣れているはずの私ですら、台の先端で逆立ちをすることが想像以上に怖く、初めて経験する逆さまの10メートルの景色に恐怖心で何度も諦めそうになった。

陸上でのイメージやトランポリンでの練習で補えるものと、実際にプールで飛ぶのとでは技術も違うが心理面ではかなりの差がある。そこを埋めるには飛ぶしか無いと分かってはいるものの、不安や疑問を何度もコーチと話し合って練習を繰り返した。

試合で使えるようになるまでには半年ほどかかったが、出来るようになってからは「簡単」だと思えたから不思議だ。

年齢とともに体力、技術の衰えを感じながらも挑戦の甲斐はあり、競技生活最後の国際大会となった2015年に光州で行われたユニバーシアードでは高飛び込みで3位に入る事ができた。

苦手だった逆立ちも23年間毎日行ってきたせいか、引退した今でもたまに逆立ちをしたくなる。

職業病だろうか。現役を引退した選手たちにも尋ねてみたい。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)