毎週日曜日掲載の「スポーツ×プログラミング教育」。今回は7人制ラグビー元日本代表で、ワークショップ「タグラグビー×算数・プログラミング」の実技を担当する石川安彦氏です。全国400校以上でラグビー教室を行ってきた同氏に、運動が苦手な子も好きになる仕掛けやプログラミングとの相性などを聞きました。【聞き手=豊本亘】

7人制ラグビー元日本代表で、ワークショップ「タグラグビー×算数・プログラミング」の実技を担当する石川安彦氏(撮影・豊本亘)
7人制ラグビー元日本代表で、ワークショップ「タグラグビー×算数・プログラミング」の実技を担当する石川安彦氏(撮影・豊本亘)

目を合わせることから

-教室で心がけていることは

ラグビーの肩書を言わず「やっさんです」としか基本は言いません。面白そうな人が来たとか、どんな教室だろうとか、好奇心をくすぐるような内容を心がけています。

-方針は以前から

子どもたちに教えるようになったのは三洋電機ワイルドナイツ(現パナソニック)時代からでした。当時は心のどこかでプロ選手がきたぞ、みたいな気持ちがあったと思います。何回か教えに行くうちに、子どもたちから「またあの人たちがきたよ」「またあれをやりたくないな」という声が聞こえたんですね。

-原因は

着目するところが違っていました。無意識に運動ができる子ばかり、または「持ち上げて」「筋肉に触らせて」など積極的な子だけ見てしまっていた。話しかけられない、うまくできずほめてももらえない子がいたことに、気づかされました。それが16年ぐらい前で、そこからが本当のスタートでした。

-どんな風に変わった

運動が得意じゃない子に目を合わせることから始めました。みんなで協力しないと勝てないとか、運が必要とか、そういうゲームをいっぱい準備して、運動が苦手でも成功体験を味わえるようなメニューにどんどん変えていきました。子どもや学校の先生から「楽しかった」という声をいただいたとき、良かったなと。

学校体育のあり方

-教室を続ける理由は

1番は、運動が苦手な子が好きになってほしいから。教育現場には不登校や授業を積極的に受けられない、いじめなどいろいろな問題があります。体育が好きで活発に動き回れる子って元気があるし、前向きなんですね。大げさに言うと、学校体育のあり方を変えて体育を好きになれば、学校も好きになり、子どもたちが元気になって日本が変わる気がして。そのために今の仕事に携わっています。

-指導は子どもたちに考えさせるスタイル

パスやトライはこうやるって教えたほうが上達は早いかもしれない。でも、子どもが主体的に考えたほうが絶対に好きになるし、楽しむことにつながります。

-プログラミング教育の考え方と通じる

まったく一緒です。個人で考えるけどチーム単位でゲームをするので、自分で考えたことを仲間に教えたり、仲間がヒントをくれたり。みんなで協力して何かを成し遂げる。うまくいかなかったら考える。誰かがミスしたらかばい合う。道徳的な要素を体育に組み入れるのが私の方法です。考えてうまくなり、それで勝利したらうれしい。そこにつながるのが指導していて一番楽しいですね。

-コミュニケーション能力の向上にもつながる

自分の競技人生を振り返ると、本当に身体能力だけでやってきてしまった。コミュニケーションの大切さに気づかず、何が必要で何が足りないかも考えず、目標もほとんど作らずに現役を引退してしまった。考えずみんなと協力せず1人でやっても限界があったし、そう自分で感じながらもうまくいかなかった。もう大きく後悔していまして…。今の子どもたちには、本当に考えて次につなげてほしいという思いもあります。

-プログラミング教育とスポーツの親和性について

運動が苦手でも、理解すれば役割を探すことができます。座学でしっかり競技を理解することがすごく大事で。私も最初は半信半疑だったんです。ワークショップで、信じられないぐらいの成長と理解の早さ、自分の役割を探して動く姿を見て、なるほどと。現役時代、こんな座学があれば良かったなって(笑い)。

東芝府中時代、トライを決める石川安彦氏 
東芝府中時代、トライを決める石川安彦氏 

◆石川安彦(いしかわ・やすひこ)1976年(昭51)1月28日生まれ、山梨県出身。日川高で3年連続全国8強入り。早大では1年生からレギュラー入り、4年時に主将を務める。卒業後はトップリーグの東芝府中、英国ロサリンパークRFC、三洋電機ワイルドナイツ、釜石シーウェイブスに所属。7人制ラグビー元日本代表。現在は明治学院大ラグビー部ヘッドコーチ。財団法人日本体育協会推進スポーツ選手活用体力向上事業専任講師として全国の学校に訪問。

(2020年2月9日本紙掲載)