フィギュアスケート女子の細田采花(あやか、24=関大)が悩み抜いた末に、来季の現役続行を決めた。

18年12月、23歳で臨んだ全日本選手権で自己最高の8位。トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をショートプログラム(SP)、フリーで計3本成功させ、感動的な演技後には「頭が変なので、家族と先生と相談して決めたいと思います」と進退を保留していた。

令和元年となった19年5月3日、大阪・高槻市の関大たかつきアイスアリーナ。2月に24歳となった練習終わりの細田が、元気に出迎えてくれた。世間話もそこそこに、話題は現役続行に至った経緯へと移った。

「現役を続ける理由は…『スケートが好きすぎて』です。スケートがなくなったら、私じゃなくなる気がする。『上に行きたい』『あの試合に出たい』というより、スケートから離れられない気持ちがあった。それで『もうちょっと続けてみよう』と決めました」

関大での4年間を全うした2年前の2月、1度は引退を決意した。だが、後輩の紀平梨花(16=関大KFSC)から「一緒に練習しよう」と誘われ、遊び半分で取り組んだ3回転半に22歳で初成功。「全日本選手権でトリプルアクセルを決めたい!」と引退を撤回し、その夢もかなえた。19年1月の国体でシーズンを終えると、進退を熟考した。

腹をくくったのは、4月上旬だった。全日本選手権8位入賞により、来季は日本スケート連盟が定める「強化選手」に初めて名を連ねた。現役続行の暁には国際スケート連盟(ISU)公認の国際大会における、3回転半認定にも夢が広がる。だが、細田はその点について「チャンスがあれば挑戦してみたいけれど、そこまで深くは考えていないです」と素直に言った。

現役を続ける意向を伝えた際には、田村岳斗コーチから念押しされた。

「今季すごく良かったけれど、来季も同じことをするのは難しいよ。トリプルアクセルに対する期待もあるし、いろいろと難しいと思う。続けるのであれば、それは覚悟した方がいい」

細田は心の中で「確かに」とうなずき、自問自答した上で、気持ちを固めた。

「来季が悪かったら、周りからどう思われるかは分からないけれど、自分自身は『やって良かった』と絶対に思える。自分がしたいから、スケートを続ける」

自らの意思をいつも尊重してくれる母貴子さんへ感謝し、悩んだ日々でスケートを愛する思いを再確認した。さらには同時期、何かに導かれるように、来季の目標も生まれていた。

「4回転トーループを…。どうせやるなら(試合で)降りてみたいんです」

3月末から4月上旬にかけて、世界選手権男子3位のビンセント・ゾウ(18=米国)が関大で練習をしていた。細田と同じ浜田美栄コーチの指導を受けるゾウは、間近で4回転ジャンプをポンポンと跳ぶ。隣の細田に、スイッチが入った。

「かっこ良く言うと『チャンスや!』って感じで…(笑い)。アクセルも(紀平)梨花ちゃんが跳んでいるのを見て、イメージしていた。先がある若い子はケガのリスクもあるけれど、私は年齢的にもそこまで先が長くないし(笑い)。ビンセントと私はジャンプが似ているみたいで、浜田先生に『まねするなら、ビンセントちゃう?』と言われたのもあって。跳んでみると、あと少しっていう感じ。『4回転跳んだら、どんな気分なんかな』って思いながら、練習しています」

練習動画を見せてもらうと、確かに着氷間近。3回転半、4回転を組み込む夢のような構成にも「4回転がいいところまでいったら、試合で入れたいです」と意欲的だ。一方で約1時間の取材の終盤、24歳の言葉に苦労人の一端が見えた。

「やっぱり中学生あたりが、一番難しい時期だと思います。下から抜かれたり、ジャンプが思うように跳べなくなったり…。その辺りからは、自分の意思でスケートに向き合っていくことになる。みんな、元々は『好き』でスケートを始めたと思うんですよね。そういう子たちが、もう1度『スケートが好き』って思い出してくれたらうれしいです。私は本当に好きだから、24歳まで続けている。結果を出すことを求めるなら、今季でやめていました」

2年前の夏、22歳だった彼女の言葉は少し違った。

「みんなジャンプが跳べない時期ってあるんです。私はそれが中1でした。下からも抜かれますし。でも、そういうのも含めて、最後まで自分なりに頑張って、練習していたら『いつかは跳べるようになるんだよ』っていうのを、トリプルアクセルで伝えたいです」

細田が次世代へ伝えたいことが、1つ増えていた。

強化選手となった来季は日本代表ジャージーに身を包み、国際大会に出場するチャンスがあるかもしれない。周囲の視線や期待は間違いなく変わる。だが、一取材者の願いとしては、ここ数年と変わらない、自分のために滑る細田が見たい。「スケートが好き」という気持ちは、その演技を見た後輩たちへ自然と伝わっていくと思う。【松本航】

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大とラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当し、平昌五輪ではフィギュアスケートとショートトラックを中心に取材。

現役続行の意思を固めた細田采花(撮影・松本航)
現役続行の意思を固めた細田采花(撮影・松本航)