5日に開幕するバレーボールの全日本高校選手権=春高に4年ぶりに帰ってきた星城(愛知)。その強さの秘密は、選手自らが考える高い自主性を身に付けさせる指導だ。就任21年目の竹内裕幸監督は、当初からこのスタイルを標榜していたわけではない。Vリーグで活躍するOBで男子日本代表のセッター深津英臣(30=パナソニック)との出会いがきっかけになった。

大学時代に監督と戦術面で衝突したことがきっかけでコートを去り、選手生活にピリオドを打った。母校の愛工大名電でコーチをした後、星城で監督になった。「これで自分のバレーができると思いましたね」。好きなバレーは、2セッターを軸にして相手に的を絞らせない攻撃型。選手の個性よりも、自分のやりたい戦術に当てはめた。勝ち星を重ねて全国でも好成績を収めていたので、当時はあまり省みることはなかった。

監督就任6年目、深津が入学した。Vリーグでも今もトップクラスの実力を持つセッターとの出会いは、選手それぞれの才能や可能性を生かす意義を教えてくれた。

試合中にトスをあげる方向をベンチで指示すると、当時2年生だった深津はそれを無視し続けた。それでも深津のゲームメークがさえ、ことごとく得点につながる。視野の広さ、瞬時の状況判断能力、スパイカーを効果的に生かす配球…。竹内監督の想像を超えていた。「(深津は)こんな所にもトスをあげるのかと、ベンチで驚きました。それ以来、彼には何も言うまいと決めました」。

深津が3年生で主将になると、竹内監督は練習メニューから戦術に至るまで全て委ねた。愛弟子は期待に応え、インターハイと国体を制した。

深津との出会いで、指揮官の指導法は劇的に変化した。「プレーするのは選手ですから。コンセプトさえずれていなければ、私はレシーブのチームでもなんでも構いません」。選手主体で考えさせる指導が定着し、数多くの栄光を勝ち取る要因になっている。

2012年度、13年度高校6冠を達成した。後に「奇跡の世代」と呼ばれた石川や中根がのびのびとプレーできたのも、自主性を重んじる指導があったからこそだ。

昨季優勝に導いたジェイテクを引退し、今春から星城で教員をしながら後輩たちを指導する中根聡太コーチも力説する。「自分自身で考えるバレーを竹内先生の下で経験したからこそ、大学、Vリーグでプレーできました」。

星城ではOBが体育館に顔を出す光景も珍しくない。「卒業生が母校に帰ってく光景を見るのも楽しみな一つです」と語る竹内監督の表情は、穏やかに笑っていた。【平山連】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)


◆平山連(ひらやま・むらじ)千葉・市川市出身、地方新聞社を経て20年1月入社の29歳。バレーボール、サーフィン、アーチェリーなどを担当中。

2年連続の3冠を達成して喜ぶ星城の選手たち(2014年1月12日)
2年連続の3冠を達成して喜ぶ星城の選手たち(2014年1月12日)
深津英臣(2018年8月13日)
深津英臣(2018年8月13日)