ミラノ石川祐希(28)はその瞬間、かみしめるように静かに右拳を握った。

セットカウント2-1で迎えた第4セット(S)。マッチポイントで放った強烈なスパイクが、相手コート奥で弾んだ。レギュラーシーズン1位のトレンティノを通算3勝1敗で退け、クラブ、自身ともに初めてつかんだ3位の座。両チーム最多28得点でMVPを獲得し、同6位からの“下克上”に花を添えた。

かねて石川は、ミラノを「どこのチームでも勝てるポテンシャルを持っている」と評していた。「自分たちのことだけに集中していけば、おのずと結果はついてくる」。この日も、決定率70%をマークしたアタックだけでなく、ブロックやサービスエースも決めてチームを鼓舞。大一番で仲間たちも力を発揮し、その言葉をしっかりと証明した。

「非常に大事な1年になる」と引き締めて迎えたパリ五輪イヤー。優勝こそ逃したが、昨季のリーグ4強入りに続き、今季もクラブを「初」に導いた。次に向かう舞台はパリ。この後は日本に帰国し、日本代表として5月開幕のネーションズリーグの第2週(6月4~9日、福岡・北九州市)からの参戦を視野に調整を進めていく見込み。日の丸を背負い、ミュンヘン大会以来52年ぶりのメダル獲得へ向かっていく。

○…世界最高峰のイタリアリーグに挑戦し、9季目。“自己最高”を塗り替え続ける石川は、「海外に行こうとなんて思っていなかった」と振り返る。中大1年時の14年。当時の松永理生監督(42=現京都・東山高監督)からの「日本にとどまっていていい器ではない」という言葉がきっかけとなり、同年にモデナとプロ契約を交わして海を渡った。今では「新しい世界を見ることで可能性が広がった」と話す。早くから世界屈指のプレーヤーたちと牙を磨き合った経験が、現在の土台となっている。

挑戦を後押しした松永氏は、1年目からその活躍を確信していた。チームには当時、ブラジル代表のブルーノ、フランス代表のヌガペトらが在籍していたが、石川は「トップの選手たちも練習中にサボったりしてる」と明かしていた。その姿に、スター選手に交じっても動じない適応力を感じ、同時に「彼らと目線が合っているな」と頼もしさも感じたという。

石川の渡伊から2年後の16年。中大は次世代選手育成を目的とした海外派遣プロジェクトを開始した。これまで同制度による海外派遣は計5度、10選手にのぼる。クラブ初の3位に導いたエースは、日本バレー界に計り知れない功績をもたらし続けている。