ベーブ・ルースの孫と会い 「2021年の大谷翔平」を語り合う…世紀をまたいで紡がれる二刀流 

9勝&46発&26盗塁、満場一致のMVP。2021年の大谷翔平がたたき出した数字は、ベースボールを愛する人すべてのロマンをかき立てました。MLBの象徴であるベーブ・ルースを、比較対象として現代によみがえらせたのです。ルースの親族からいただいた言葉たちをどうぞ。(2021年10月4日掲載。所属、年齢などは掲載当時)

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斎藤庸裕

本物の二刀流―。エンゼルス大谷翔平投手(27)のメジャー4年目の飛躍と今後への期待を、ベーブ・ルースの孫であるトム・スティーブンスさん(69)が語った。数々の功績を残してきたルースの伝説を後世に伝えてきた親族の1人。ルース以来103年ぶりの「2ケタ勝利&2ケタ本塁打」は来季以降へ持ち越しとなったが、偉業達成へ激励のメッセージを添えた。レジェンドの記憶をたどり、過去と重ねながら、投打でプレーできる能力を証明した大谷の勇姿をたたえた。

■二刀流≠ルースの意思

エンゼルスと契約するまで、彼の存在は知らなかった。日本での実績もあり、多くの日本人選手が成功しているが、メジャーレベルで両方をやるのはとてもレアなこと。おそらく、彼を知った時の感覚は、「OK, show me(さぁ、見せてくれ)」だったかな。アメリカに来て私たちも存在を知って、そして「Show us(みんなに見せてくれ)」と。

◆トム・スティーブンス 1952年8月28日生まれ。米国ニューハンプシャー州出身。ベーブ・ルースの養子の娘ジュリア・スティーブンス(102歳で死去)の1人息子。大学まで野球を続ける。卒業後の81年に石油関連会社に就職。その後、サウジアラビア、タイ、パキスタンで土木技師として働く。専門分野は道路と橋の建設。最近ではアフガニスタンで軍事目的で橋の建設に携わった。現在は息子とともに、ルースの伝説を語り継ぐウェブサイト「ベーブ・ルース・セントラル」を運営している。

1年目は〝打てる〟ことを示してくれた。104試合で22本塁打。皆、彼にパワーがあることが分かった。ただ、投手としての力はまだ証明されなかった。だから今年、最も驚いたのは投手での成績。過去にケガもしてきたけど、持ちこたえて今いい状態を保っている。そして、彼が何ができるのか見せてくれている。

ショウヘイはすごく勇気があると思う。ステップアップしても、二刀流でやりたいと。反対に、二刀流になることはベーブの意思ではなかったんだ。

彼は、投手から野手へ転向した。だから、もしかしたら2人を比較するのはフェアではないのかもしれない。(実質の二刀流として)最後に投げた年の1919年、レッドソックスは彼に投げることを強く勧めた。

ピンチを脱し、雄たけびを上げる大谷=2021年9月3日

ピンチを脱し、雄たけびを上げる大谷=2021年9月3日

いい投手は、野手よりも価値があるとされ、左腕はより重宝されていた。だから、彼らはベーブが投手をやめることを認めようとしなかった。

■自信に満ちた姿

だが、ベーブが打つと観客が球場に詰めかけて、最終的には意向を認めた。彼は野手になりたかったんだ。もし、彼に二刀流でやりたいという意思があったなら、もっと投げていただろうね。数字も変わっていたかもしれない。ただ、能力には自信があった。ショウヘイも今、自信があるように見える。そういう姿はベーブを思い起こさせるね。

私は祖父が亡くなった4年後に生まれて、直接、会うことはできなかったけど、祖母(ルースの妻クレア)とよく話して、ベーブの全てを聞いてきた。ただ、野球に関することはあんまりなかったんだ。

ベーブは野球のことを家に持ち込まなかった。「決して諦めない人間に勝つことは難しい」とか「三振するたびに、次のホームランに近づいている」とか、気持ちを高める言葉はあったけど、ほとんどの話は家族とのこと。たとえば彼がどんな風にクリスマスツリーを飾っていたか、サンクスギビング(感謝祭)のターキー(七面鳥)をどう作っていたか、そういう話だったね。

1934年、日米野球で来日したルース(ベーブ・ルース博物館所蔵)

1934年、日米野球で来日したルース(ベーブ・ルース博物館所蔵)

私たちは日本と何かつながりがあるのだとも思う。1934年にベーブが日米野球に出場した時、私の母も一緒に行って、日本が本当に好きになってね。旅行のことをとてもよく覚えていた。

私はまだ日本に行ったことがないけど、小さいころから武道をやっていた。今までで最も日本に近づいたのは成田空港での乗り換えの時かな(笑い)。いつか、日本に行きたいんだ。

ショウヘイは、日本だけでなくアメリカでも野球への熱狂を呼んでいる。すごくナイスガイで、人々は彼の成し遂げていることに興奮しているし、ベーブもきっと応援する。みんなが彼の成功を祈っている。

■取材後記約20年前、知人がベーブ・ルースのフォームと走り方のモノマネをしていた。学生時代の野球部のチームメートだったが、先輩、同僚、後輩ら皆で笑った記憶を鮮明に覚えている。まさか、そのベーブ・ルースの親族と話し、当時の伝説を伝え聞き、現代の二刀流選手について語り合うとは想像もしていなかった。

同じようなことが50年後や100年後、私たちが生きていない時代にも起こるだろうと感じた。「ショウヘイ・オオタニ」の名は歴史に刻まれ、新聞や映像で語り継がれていく。子どもたちはかつてのレジェンドの姿をまねし、時には数々の逸話に花を咲かせることだろう。

「2021年の大谷翔平」は永遠に残る。再び伝説的な二刀流選手が現れれば人々は歓喜し、大谷家も注目される。今季の活躍はレガシーと化し、生き続けるに違いない。

野球の神様と言われ、はるか遠い存在だったベーブ・ルース。親族の温かみに触れ、興奮で震えるような感覚を得た。快く取材を受け入れてくれたスティーブンスさんに感謝したい。