吉本新喜劇初の女性座長・酒井藍「容姿いじり」と「求められる変化」を語る

9月17、18日に大阪城ホール一帯で、吉本興業の大規模お笑いフェス「LIVE STAND 22-23 OSAKA」が行われた。大阪名物「吉本新喜劇」も、アーティストあこがれの聖地「大阪城ホール」で上演された。その新喜劇を引っ張るすっちー、酒井藍の2座長に「新喜劇の今、これから」を聞き、2週連続で紹介する。まずは女性座長の酒井藍が思いを語る。

おもろいで!吉本芸人

取材・撮影=三宅敏、村上久美子

吉本興業創業110周年の今年、間寛平ゼネラルマネジャー(GM)就任に始まり、セカンドシアター公演、新喜劇総選挙、そしてLIVE STANDでは大阪城ホール公演と、吉本新喜劇をめぐる環境は激動の嵐。初の女性座長就任から5年、酒井藍(36)は今、何を思うのか。その胸の内に迫った。

◆酒井藍(さかい・あい) 1986年(昭61)9月10日、奈良県磯城郡生まれ。高校卒業後、専門学校を経て奈良県警察に就職。橿原署の交通課で勤務する。07年9月、吉本新喜劇の「第3個目金の卵オーディション」に合格。舞台では、大きな体(160センチ、95キロ)を生かして笑いを取り、人気者に。17年7月、30歳で座長就任。趣味は寺社仏閣巡り、柔道、絵を描くこと。

9月18日。お笑いフェス「LIVE STAND 22ー23 OSAKA」の一環として、吉本新喜劇が上演された。会場は大阪城ホール。吉本のホームグラウンドであるなんばグランド花月(NGK)よりも、はるかに収容人員は多い。

すっちー、酒井藍の両座長をはじめ、島田珠代、吉田裕、松浦真也といった新喜劇の人気者がそろい、人気漫才コンビのアインシュタインがゲスト出演し、おおいに盛り上げた。

酒井 大阪城ホールでの新喜劇は初めてでした。何千人というファンで埋まった客席は、さすがにいつもとは違ってましたねえ。大きな会場といえば、以前、コヤブソニック(小籔千豊主宰による音楽・お笑いの融合イベント)に出させてもらったことがありました。その時(2017年)は“寄席感”がなくて「これがフェスの空気なんだ~」と感激したのを覚えています。

LIVE STANDで大阪城ホールでの吉本新喜劇に臨んだ酒井藍(右端)

LIVE STANDで大阪城ホールでの吉本新喜劇に臨んだ酒井藍(右端)

今回の会場、大阪城ホールといえば、東京の日本武道館とならび、音楽アーティストにとっての“聖地”でもある。

酒井 大阪城ホールって、やっぱり有名なアーティストさんがコンサートを行う場、ってイメージじゃないですか。そこで新喜劇をやらせてもらったんですから、今回もフェス感っていうんですか? 新鮮だし、緊張でガチガチになるより、なんとも言えない楽しさがありました。LIVE STANDって、すごいですね。

17年、30歳で新喜劇初の女性座長に就いた。これは99年に座長制度が確立されて以降、小籔千豊の32歳を抜いて史上最年少での就任だった。以来、5年。ぽっちゃり体形、愛くるしい笑顔は老若男女に人気。精力的に座長公演を積み重ねており、いまや新喜劇の顔として欠かせない存在となった。

8月31日に開票された「新喜劇総選挙」では1万8962票を集め、酒井は8位に食い込んだ。インターネット投票による新喜劇初のイベントだった。

上位30人に入れば、10月10日の「吉本新喜劇まつり2022~選ばれし30名の座員たち」(会場NGK)に出演できるとあって、特に若手は目の色を変えて票集めに汗を流した。互いの人気と意地をかけたマジのバトルだった。

酒井 8位に選んでいただいて「うれしい」という気持ちが一番です。実は、両親と2人の妹、そして妹の旦那さん(既婚は1人)の計5人には「ネット投票を頼みます」と、しっかりお願いしてました(笑い)。でも、本音を言えば、順位は関係なく、本当にたくさんの人(総投票数77万184)が参加してくれたことが何よりありがたいです。

総選挙をめぐっては若手からベテランまで、キャリアに関係なく、盛り上げようと各自が工夫を凝らした。谷川友梨(39)はSNSで日替わりの水着姿を披露し、投票を呼びかけて話題になった(9406票で28位)。小寺真理(31)も連日SNSに写真入りで投稿し、ファンにアピールした(2万5345票で5位)。

最終結果は、1位アキ(53=3万9405票)、2位辻本茂雄(57=3万5336票)、3位すっちー(50=3万1604票)とベテランが上位に。寛平GMは9位(1万7222票)だった。

酒井 楽しかった。総選挙という名のお祭りに参加した気分です。ファンの人も、我々も一緒になって楽しかったですね。1位になったアキさんは女性人気が高かったみたいです。ダンスが得意で、いつまでも体形が変わらないし、セクシー。色気があって、かっこいい人です。65歳の浅香あき恵姉さん(1万2767票で17位)、79歳の池乃めだか師匠(1万562票で23位)も、年齢が信じられないほど若々しくてすてきでした。総選挙という、これまでになかったイベントを用意していただいた寛平GMには感謝しかありません。

酒井自身、寛平GM効果は肌で感じている。GM就任以後、中堅・若手対象のセカンドシアター新喜劇立ち上げ、座員によるネタバトル開催と、出番に恵まれないメンバーのためにチャンスを作った。結果、互いの競争意識が高まり、自然と活気が生まれるようになっていた。

酒井 座員が漫才やコントを演じるネタバトルだって、寛平GMがいるから豪華な審査員が来てくださる。そこから座員とのつながりが生まれて、さらに新たな輪が広がっていくのがありがたい。それにGMは座員のことを本当によく見ていただいてます。現場に来ては自分の目で確かめて、頑張った若手には「よっしゃ、ようやった!」と直接、声を掛けて激励してくれるんです。生の言葉で褒めて成長させてくれるんですね。あれだけの大ベテランですし、あのキャラクターで誰からも愛される人なので、新喜劇にとっては、とても大きな存在です。

10月10日には「新喜劇まつり」を控えているが、その内容についてはギリギリまでシークレット。座長の酒井でさえも、どんな舞台になるのか知らされていないという。

酒井 その日、私は広島で仕事があるんです。それが終わって、大阪に戻ってから参加することになるんですが、さて何をするのでしょう? 総選挙が夏祭りだとすれば「新喜劇まつり」は秋祭りかな。とにかく今は、わくわく感しかありません。

無邪気な笑顔は健在の酒井藍(撮影・村上久美子)

無邪気な笑顔は健在の酒井藍(撮影・村上久美子)

1959年(昭34)の発足以来、新喜劇も少しずつ、時代の流れに応じて変化を求められている。

池乃めだか(79)の低身長ギャグに代表される「ハゲ」「デブ」「チビ」といった外見的特徴を笑いに転化するのも新喜劇の王道パターンのひとつだったが、今はそうした手法を用いるにもデリケートになった。かつては笑いを取るための定番でもあった「容姿いじり」が、問題とされるケースも増えている。

酒井 私自身、体形(体重95キロ)をギャグにしています。共演者から体形をいじられて「ブーブーブー、わたし人間ですねん」と返し、客席の笑いを誘っていました。悪意のある容姿いじりはあかんと思いますが、いじられた側が反撃できることが大事だと思います。古き良き時代のいい部分を受け継ぎながら、時代とともに新喜劇も変わっていく必要があるのでしょうね。

本人にとってのコンプレックスを容赦なくいじられれば、学校や職場であれば即いじめにつながってしまう。そうした批判や懸念が持たれるのは事実。特にネット社会では、思わぬ方向にエスカレートしてしまう恐れもある。

舞台やテレビでのプロのトークを、アマチュアがそのまま生活にあてはめれば、当事者同士がギクシャクするのは当たり前。刑事ドラマの殺人シーンを見て、その手法をマネすればとんでもないことになってしまう。時代劇でチャンバラを見たからといって、実際に刃物で他人を切りつけるなど許されるはずもない。

酒井 私たちをいじってもらうのはいいんです。でも、同じことを友達や周囲の人にそのままぶつける前に、少し立ち止まって考えてほしいんです。「こういう言い方をしてもいいのかな? 友達は傷つかないかな?」って。

何かと複雑な時代になったのは確かだが、吉本新喜劇は大阪の宝。笑いを素直に受け入れてもらえる舞台を届けるべく、酒井も日々努めている。