【令和版スクール☆ウォーズ:前編】福岡の熱血教師が0-133から目指す「全国制覇」

始まりは1本の電話だった。「日本一になると言って指導する熱血教師がおりまして。今となっては、街が応援するようになっています」。とある取材で福岡県うきは市役所に連絡をした際にそう教えてくれた。公立の浮羽究真館(きゅうしんかん)高校ラグビー部を率いるのは吉瀬晋太郎監督(36)。不登校だった体の小さな選手が、本気で全国制覇を目指す物語。(前後編の前編、敬称略)

ストーリーズ

益子浩一


小学生の頃、不登校になったことがある。周囲に溶け込むのが苦手だった。

なぜ同じ制服を着て、同じ教科書を持ち、毎日学校に向かうのか。当たり前のことが、当たり前に受け入れることができなかった。

小学3年から始めたラグビーは、高校に入ってからも続けた。

ただ、卒業したら大学には行かず、山にこもって樵(きこり)になるか、それが無理なら消防士をしようとでも思っていた。

日常から離れたかった。

できることなら-。

高校最後の秋、花園出場をかけた福岡県予選の1回戦。浮羽高(浮羽究真館の前身)は0-133で強豪の東福岡に大敗した。

どこかの高校、土のグラウンドだった。今から19年も前、あの日の場所にSOとして吉瀬晋太郎はいた。

身長は160センチを超えた程度で、体重は58キロ。ラグビー選手としては、かなり細い。

例えるなら、ドラマ「スクール☆ウォーズ」に出てくる体の小さな少年、イソップのようだった。

忘れもしない。

人生を変えるきっかけになった試合だった。

「スクール✩ウォーズ」 84年からTBS系列で放送。伏見工ラグビー部を描いた学園ドラマ。山口良治監督をモデルにした熱血教師役を山下真司が、平尾氏をモデルにしたエース役を四方堂(しほうどう)亘が務めた。麻倉未稀の主題歌「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」が大ヒット。

「ラグビーをしよう」男子新入生全員に手紙

無名の公立高校の部員に全国制覇という目標を抱かせている浮羽究真館高の吉瀬晋太郎監督

無名の公立高校の部員に全国制覇という目標を抱かせている浮羽究真館高の吉瀬晋太郎監督

福岡県の南東部に位置するうきは市には、のどかな田園風景が広がる。山の斜面に300枚ある「つづら棚田」は、日本棚田百選に選ばれた。

かつては的邑(いくはのむら)と呼ばれ、ヤマトタケルの父とされる景行天皇が訪れて食事をした際、給仕が盞(うき=酒杯)を忘れたことから派生して「浮羽」と呼ばれるようになったという説がある。

秋になれば金色に輝く稲穂と、赤い彼岸花のコントラストをひと目見ようと多くの観光客が訪れる。

そんな大分との県境にある町の唯一の高校が浮羽究真館であり、吉瀬は2015年にOB監督として赴任することとなった。

133失点の大敗から、12年の歳月が流れていた。

部員は10人ほど。試合をするには、他の部から人を借りてこなければいけない。ユニホームすらなかった。

恵まれているとはいえない公立高校の環境でも、部員たちに目指すものを伝えた。

「全国制覇」-

花園出場すら夢のまた夢。はるか遠い場所にあった。学生は半信半疑、ただ青年監督の目は本気だった。

高校ラグビー界において、無名の弱小校を1980年度に全国制覇へと導いた伏見工業(現京都工学院)の軌跡はドラマ「スクール☆ウォーズ」として描かれた。伏見工業の元監督である山口良治の指導法を、吉瀬は参考にする。

桜の花びらが舞う春、新入生の男子全員に手紙を書いた。

「ラグビーをしよう。全国制覇を目指そう」

職員室に戻ると、白い目で見られた。

「今どき、そういうのは通用せん。熱いのはいいが、いつまで続くんか」

ただ、何を言われようと、信念を曲げることはなかった。

共感してもらう人を増やすために小中学校に出向いてはラグビー教室を開き、部員とともに近隣の老人ホームを訪問した。

次第に“熱血教師”を応援する人が増えていく。

寮で食事をとる浮羽究真館高ラグビー部のメンバー

寮で食事をとる浮羽究真館高ラグビー部のメンバー

寮は支援してくれる温泉旅館。食事の心配はない。監督の情熱が、恵まれてはいなかった高校の環境を劇的に変えた。

新入部員は就任初年度が5人、2年目は15人、3年目は20人。まいた種は芽となり、今まさに太い幹になろうとしている途中で、花を咲かす時を待つ。

2019年1月の新人戦で福岡県で初めて4強入りを果たした。その夏、地域を挙げてラグビー部を支援する「日本一プロジェクト」が発足。花園出場をかけた翌2020年秋の福岡県予選(第2地区)準決勝は5-90で敗れはしたが、初めて東福岡からトライを奪った。

まだ花園は遠い。

ただ、東福岡は冬の全国高校ラグビーで優勝6度、準優勝3度の名門である。肩を並べることができるのなら、それは全国制覇に近づいたことを意味する。

浮羽究真館高ラグビー部のメンバー

浮羽究真館高ラグビー部のメンバー

かつての伏見工業が当時の全国トップレベルだった花園高校と京都で鎬(しのぎ)を削ったように、目の前の敵を倒すことで夢は現実となる可能性を秘めている。

それを、監督の吉瀬は知っている。

「共感してくれる選手が集まり、必ずや東福岡を倒す。僕たちの存在理由として、日本一という目標を掲げています。『ああ言っているけど、本当は無理だよね』、じゃあないんです。ラグビーのうまい子が集まっているヒガシ(東福岡)や筑紫と勝負するには、どうしたらいいか。テクニックではなく、泥臭く目標をかなえたい。理念として掲げているのは、『いついかなる時もチャンピオンシップを目指す集団であること』という、私の心の原点でもあります」

それは、どこかで聞いたことのある言葉でもあった。