4日開幕の北京五輪に初出場するフィギュアスケート女子の河辺愛菜(17=木下アカデミー)に、世界的ミュージシャンからエールが届いた。フリー曲「Miracle」を作詞作曲したX JAPANのYOSHIKIがこのほど、日刊スポーツを通じ「自分を信じて奇跡を起こして」と激励。自身の楽曲が初めて流れる五輪も心待ちにした。女子ショートプログラム(SP)は15日、勝負のフリーは17日に行われる。

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昨年末、帰国していたYOSHIKIは目が離せなくなっていた。4分間、移動中の後部座席の車載テレビから。フィギュアスケート全日本選手権、女子フリーで河辺が大技のトリプルアクセル(3回転半)を決めた。「Miracle」の荘厳な調べと、サラ・ブライトマンのソプラノが力強さを増す。会心の演技。北京五輪代表の切符をつかんだ17歳に「人を引きつける何かを持っている。華がある」と感じた。会場に響き渡った楽曲にも素直に思った。「うれしかった」。

自身の楽曲を舞う河辺に興味を持った。「調べさせていただきました。代表に決まるまで結構すごい経緯ですよね」。補欠からグランプリ(GP)シリーズのスケートカナダ、NHK杯に出場。2戦目2位の勢いでチャンスを逃さず、全日本で3枠目に食い込んだ。「奇跡と言うと失礼かもしれませんが、まさにミラクル」と驚く成長劇を見た。

自身とも重ねる。「この曲は(18年に)サラ・バージョンとして新たにリリースした際、また海外に行くぞ、世界に向かおう、と書いたもの。その意味では五輪に、これから世界に挑む河辺選手に使っていただけて光栄」と親近感を持つ。

面識はないが、映像を通して感じ取った河辺の魅力を問われると「やはりジャンプですね」と即答した。確かに、全日本に出場した30選手で1人だけ3回転半を降り、GOE(出来栄え点)1・94の加点を引き出していた。「Xジャンプよりも高かったですか?」。そう質問されると「いえいえいえ…」と笑いながら「素晴らしいですよね、ジャンプ」と称賛。両手をクロスして跳ぶ代名詞、日本を代表する“ジャンプ”で数万人の会場を1つにしてきた男の、お墨付きだった。

これまでも、自身の作品は伊藤みどりさんや浅田舞さん、村上大介氏ら多くのスケーターに演じられてきた。中でも大ファンだった選手が、自国開催の98年長野五輪代表だった田村岳斗氏だ。現役時代は「紅」や「アメジスト」をエキシビションで愛用。その田村氏が今回、河辺のコーチとして日本選手団に登録され、北京に同行する。師弟として挑む五輪に「え…感動。さらに応援したくなりました」と縁も強まっている。

「Ci sara un miracolo(奇跡は起こる)」「Distruggila(壊しなさい)」-。あとは本番へ背中を押すだけ。昨年10月のスケートカナダでSP最下位に終わった河辺が「フリーがこなければいいのに、と思うくらい怖かった」と緊張した時も曲に助けられた。YOSHIKIは共感する。

「歌詞はイタリア語で壁を、自分の殻を壊して外に出よう、という思いを込めています。選手に限らず、どんな方も、それぞれの人生の中で大きな舞台に立つ時がある。そこに向けた応援歌。自分で言うのも何ですけどピッタリですよね」

世界的振付師ローリー・ニコルさんも、だから選曲したのかもしれない。河辺も2季連続で採用、五輪シーズンの勝負曲とした。救われたカナダ以降は右肩上がり。北京まで到達した。

河辺は「どのような気持ちで『Miracle』を滑ればいいですか」と尋ねたがっていたという。伝え聞くとエールで回答した。

「自分は強いんだと。奇跡を起こせるんだと。そう信じてください。自分が思っているよりも河辺選手、愛菜ちゃんはすごい人なんです。そういう気持ちで滑っていただければ、奇跡は起きます。ぜひミラクルを起こしてほしい。僕もそうやって言い聞かせてきたので。やっぱり人って、ダメだって思う時あるじゃないですか。自分もそうだったんですけど、自分はすごいと思うとすごくなっちゃうんです。自分を信じてください。努力は裏切らない。出し切って、自分を信じればミラクルは起こります」

自身の曲が五輪で流されるのは初めて。14年にボーカル入り曲が解禁されたことで、ブライトマンの世界一と名高い歌声も響く。「緊張します」と背筋を伸ばしつつ約束した。「日本にいるかアメリカにいるか分からないですけど、どの国にいても必ず見ます。サラとも近々お話しする機会があるので『ぜひ見てほしい』と伝えますし、喜ぶと思います。ぜひ結果を出していただき、五輪後にお目にかかりましょう」。待望の女子フリーは2月17日だ。【木下淳、近藤由美子】

○…河辺は昨年末の全日本選手権3位で北京五輪代表に選ばれた後、拠点の木下アカデミー京都アイスアリーナで最終調整している。今月11日には練習公開。浜田、田村の両コーチとジャンプ、バレエ講師の川畑麻弓さんと表現法などを改善した。寄せ書きで祝福された際には「(名古屋時代の14年は)ソチ五輪に出る鈴木明子さんに寄せ書きを書く側でした。もらえる側になるとは…」と感動。「SPもフリーも自己ベストを出したい」と燃えている。

◆河辺愛菜(かわべ・まな)2004年(平16)10月31日、名古屋市生まれ。5歳で競技を始め、中学2年時に関西へ拠点を移す。浜田美栄コーチ組に師事して3回転半を習得した。19年全日本ジュニア選手権優勝、20年は全国中学校大会優勝やユース五輪4位、21年はGPカナダ9位、NHK杯2位と急成長。趣味は愛犬と遊ぶこと。嵐の櫻井翔のファン。京都両洋高2年。154センチ。血液型O。

◆ミュージシャンとプログラム 14年にシングルとペアでもボーカル(歌唱)入り曲が解禁された後、羽生結弦が16-17年のSP「レッツ・ゴー・クレイジー」(プリンス)や20-21年のSP「レット・ミー・エンターテイン・ユー」(ロビー・ウィリアムズ)を演じた。解禁後初の五輪となった18年平昌大会ではビヨンセやU2を採用した選手・組も。ロシアのコストルナヤは昨季からビリー・アイリッシュを、米国のブラウンは今季からニーナ・シモンの楽曲で舞っている。

◆YOSHIKI(ヨシキ)本名、年齢非公表。X JAPANのリーダーでドラム、ピアノを担当。ヒット曲は「紅」「ENDLESS RAIN」など多数。ロスを拠点にソロ活動も並行して行う。8月にYOSHIKI恒例の3年ぶりのディナーショーをグランドハイアット東京で、自身最多となる11日間計20公演開催する。