ショートプログラム(SP)8位と出遅れた羽生結弦(27=ANA)が、2月10日のフリーで「最終目標」に挑む。「天と地と」の冒頭、前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)を試みる予定。現行のジャンプでは最高の基礎点12・5点にGOE(出来栄え点)を加えれば、最大18・75点の夢がある超大技。ナンバーワンよりオンリーワンを目指す戦いが待つ。

【フィギュア】羽生4回転失敗8位 鍵山2位、宇野3位 チェン史上最高で首位/男子SP詳細>>

羽生の恩師が、日本からねぎらった。小学校2年から高校1年まで指導した都築章一郎コーチ(84)は「交通事故みたいな瞬間でしたね。彼が失敗したと思っていないように、どうしてもコントロールできないことでした」と冒頭のミスに同情した。その4回転サルコーは都築氏と磨いた。11年の東日本大震災。仙台から恩師を頼って横浜に避難してリンクを借り、ひたすら取り組んだ。羽生が前を向くきっかけの技だった。

自宅でテレビ観戦した都築氏は「羽生が久々の公の場でどんな滑りをするか楽しみでした。その後の演技は素晴らしい形で締めくくった。1つ1つの音を心で表現していた」と褒めた。

今だから明かす。昨年11月、関係者を通じて、ある映像を見た。羽生が4回転半を跳んでいた。「降りられたのか。おめでとう」とメールを送ると、返ってきたのが「けがをしてしまいました」だった。NHK杯の欠場に至った右足首の負傷。羽生の「やっと立てるようになった、その次の次の日ぐらいに捻挫した」との証言と重なる。以来、成功を現実として想像した。

昨年の全日本選手権で4回転半に挑んだ姿も見て「葛藤がある中でやり切った彼の強さを見た」。幼少時から「アクセルは王様のジャンプ」と教え、基礎をたたき込んだ。全日本の公式練習で最も惜しかった形が「完成に近い状態」と期待する。10日のフリーへ「4回転半を皆さんの前で披露する気持ちを強く感じる。実現してくれたら感謝しかない」。愛弟子の夢がかなう瞬間を願う。【木下淳】