日本選手団主将で、スピードスケートのエース高木美帆(27=日体大職)は1大会最多5個のメダルを取る-。北京オリンピック(五輪)で高木美は5日の女子3000メートルを皮切りに、13日間で5種目、最大7レースに挑む。98年長野五輪男子500メートル金メダリスト清水宏保氏(47)は「金メダル2個を含めて全種目でメダルを狙える」と予想。短、中、長距離で世界トップクラスと戦える強さの秘密も解説した。
美帆の全種目メダルは間違いないです。金メダルは最低2個はとれる。得意で主戦場の1500メートルと連覇を狙う団体追い抜きです。3000メートルは銅、1000メートルは銀、500メートルは銅と予想します。もちろん2種目以外も金メダルのチャンスは出てくるでしょう。個人種目で金メダルを確実に狙うなら、種目数を絞る手もあったと思います。13日間で5種目と、タフな日程は心配ですが、美帆なら乗り切れるはずです。
カギは初戦の3000メートル。初レースで勢いに乗れば、その後の種目でも一気にメダル量産といく可能性が高い。日本選手団も勢いに乗れるでしょう。逆に、例えば美帆が3、4位以内と想定したのに8、9位の結果となれば精神的ショックが大きく、その後のレースに響く可能性もあります。
本命の1500メートルは「取って欲しい!」と期待も込めて金予想。注目の五輪初挑戦となる500メートルは銅メダルと予想しました。連覇を狙う小平奈緒をはじめ、短距離専門の選手は500メートルが初戦。経験上、短距離はフレッシュな体で迎える必要がありますが3000、1500メートルを滑った上に前日には女子団体追い抜きの予選もあるので疲労がたまっている。金メダルの力もありますが、日程面を考えて銅メダルを予想しました。
冬季五輪の同一大会では日本人では前人未踏の5個のメダルの可能性。この強さはどこからくるのでしょうか。美帆は500メートルから3000メートルまで挑戦する理由を「スピードスケートそのものを速く滑るために、短中長距離に出場している」と話しています。その考えはスピードスケートにおいて、とても理にかなっています。
自分も高校2年まで長距離の5000メートルの選手でした。長距離種目は当然、長く滑るわけですから、そこでスケートの基礎が身につきます。一方で短距離種目で習得したスピード感を中長距離でいかす。その2つのメリットを両立させることは簡単ではありません。生半可なトレーニングでは身につかないし、技術力もいる。美帆の強さの秘密を3つあげてみます。
(1)極限の滑り
片足のひと滑りにかける時間を「アウト:フラット:イン」に分けた場合、普通の人が「5:3:2」だとすると美帆は逆で「2:3:5」とインエッジ(刃)に比重を置いている。一番体重も乗り、脚の力も踏ん張る大事なインエッジで、刃をより傾けて氷を蹴ることができる。ギリギリまで刃を倒しているため、スピードは出る。他の選手なら転倒してしまうところだが、踏ん張れるフィジカル能力がある。
(2)変わらない姿勢と滑り方 短距離から長距離まで姿勢が変わりません。普通は短距離は重心が低く、長距離は高い姿勢になりますが、美帆は一定の低い姿勢を保ちます。滑り方も(1)のような刃をギリギリに傾けた滑りを貫きます。
(3)強靭(きょうじん)なバネ 刃を倒して蹴り、氷から大きな反発を得ることでスピードが出る。しかし、その反発力をただ単に体に受けるだけではだめで、氷に返していく必要があります。その繰り返しで加速度は増していく。車のサスペンションのようなバネが必要で、美帆はそれがすごい。足裏から膝、腰回り、上半身と伝わったパワーを今度は逆に足裏へと返していく。筋肉の強さだけでなく、柔軟性があるからこそ。まさにバネのような働きを全身でやっています。
このような滑りは、フィジカルの強さがあってこそ。美帆は基礎のトレーニングから自らを追い込んでいます。例えば片足で左右にジャンプする練習。着地する際、お尻を膝の高さにするのか、くるぶし寸前まで沈めるのかで負荷が全然違います。わずか20センチの差ですが、ここをサボってしまう選手はいる。美帆はこういった細部までを徹底できるからこそ一流なのです。 史上初の快挙のチャンスは、そう簡単には巡ってきません。年齢、肉体、海外ライバル…。すべてが絡み合った中で、得られたチャンスは、絶対にものにしてほしいです。
心配な点はピーキングの面です。美帆は昨年11、12月のW杯で好成績を収めました。そこで頑張っていた分、五輪本番にぴったりとピーキングがくるのか、心配なところはあります。
20年2月に米ソルトレークシティーで開かれた世界距離別選手権。美帆は得意の1500メートルで4位とメダルを逃しました。このレースは海外勢も北京五輪を想定して挑み、「一発勝負」がシミュレーションできる試合でした。僕が現役だったら「ここで勝たないと」と思う。美帆も一発勝負の想定で勝ちに行ったはず。それでも勝てなかった。相当こたえたはずです。
海外のトップ選手はしたたかでピーキングもうまい。本番までの成績はあてにならず「だまし合い」のようなところもあります。ただ、美帆は2年前の屈辱を闘争心に変えて、その後の飛躍につなげてきました。この一発勝負の教訓を生かして金メダルを取ってくれることを願っています。
◆清水宏保(しみず・ひろやす)1974年(昭49)2月27日、北海道帯広市生まれ。白樺学園高-日大。五輪は94年リレハンメルから06年トリノまで4大会連続出場。98年長野大会は500メートルでスピードスケートでは日本勢初の金、1000メートル銅。02年ソルトレークシティー大会500メートル銀。世界距離別選手権500メートルで5度の金。10年に現役引退。現在は札幌でトレーニングジム、高齢者向けのリハビリセンターを経営。
◆日本人の五輪同一大会複数メダル 冬季は3個が最多で2人が記録。98年長野大会のジャンプ男子船木和喜が個人ラージヒルと団体で金、ノーマルヒルで銀を獲得。18年平昌大会でスケート女子高木美帆が団体追い抜きで金、1500メートルで銀、1000メートルで銅。1大会で3色メダルは夏冬通じて日本女子史上初。夏季五輪では60年ローマ大会体操小野喬の金3、銀1、銅2の6個が最多。同一大会最多金メダルは68年メキシコ大会の体操中山彰規で4冠。










