侍ジャパン稲葉篤紀監督(48)が世界に「結束」を示す。延期で仕切り直しとなった東京オリンピック(五輪)へ、新春インタビューに応じた。未知のウイルスで延期となった1年に何を思い、新たな五輪イヤーにどう表現するのか。日本球界の総力を束ねて、臨む。【取材・構成=広重竜太郎】

稲葉監督の一問一答は以下。

-五輪の延期が決まり、どのような気持ちで1年を過ごしてきたか

稲葉監督 コロナの影響で視察に関してはなるべく行かない方がいいと。選手に、監督、コーチも含めて接触しない方がいいということで自宅でテレビをずっと見させてもらった。私の中で我慢という1年だったと思います。

-これほど人生で我慢したことはあったか

稲葉監督 (現役時代は)我慢した年というのはヤクルト時代の98、99年。手術して野球ができなかった。

-似た感覚か

稲葉監督 自分がプレーヤーとしてできないのと、監督として試合ができないのとでは、またちょっと違う感覚ですかね。選手は野球がやれないのは、きついですよね。特に目に見えないウイルスと戦わないといけない大変さはあったでしょう。そう思うと(去年は視察を)自粛した方がいいなという思いだった。

-代表の力は日本野球界全体の縮図と言える。この1年は成長したのか、または停滞したのか

稲葉監督 無観客から始まった。あの状態で真剣勝負をする。プロ野球は応援していただいて、見られてあらためて自分の力が出せる。そういうエネルギーを力に変える選手も当然いますし、ありがたさというのは感じた。私もテレビでしか見られなかったけど、少しずつファンの方たちが入って、ちょっとずつ雰囲気も変わった。そういう1年だったのじゃないか。そういう意味では、五輪もどういう形で開催されるか分からないが、みなさまの応援なくしてできないというのはあらためて感じましたね。

-無観客の状況はつくろうと思っても、つくれない

稲葉監督 そうですね。あとは我々は野球をやってきて、昔はみんなが野球を経験して、そっからいろんなスポーツに、という感じだった。今は小さいころから違ういろんなスポーツに分散されて、野球をやったことがありませんという子供が増えてきている。その中で我々は野球に育ててもらったという意味では、ジャパンというトップチームが勝つという使命感は今、野球をやっている子供たちも、これから野球を始める子供たちも、野球はすごいね、というものを感じ取ってもらうために金メダルを取る必要は絶対にあるなと感じてます。単に金メダルを取って野球はすごい、じゃなくて、そこにはいろんな思いがあって野球選手のプライドも秘めてなきゃいけない。野球選手はすごいね、といつまでも思ってもらうためには、やっぱり勝たなきゃいけない。五輪で金メダルを取ることが大事になる。

-選考の選択肢は広がったか

稲葉監督 若い年代も含めていろんな選手が出てきた。これは本当にいい悩みとして捉えています。また、コロナの影響で人数も含めてどういう形で行われるかも分からない。ひょっとしたらコロナにかかってしまう選手も出てくるなど、いろんな想定をしてきた中で、今回は少しでも可能性のある選手は(1次ロースターに)入れておこうとコーチと話をして、180人以上の大人数で(候補として)出した。1次ロースターを提出していないと(その後の選考で)そこから選手を選べませんというルール。なるべくたくさん出して選択肢を増やすことをやりました。

-森下、平良、佐野らプレミア12の未選出組も昨季は活躍した。そういった選手がプレミア組に割って入る可能性は

稲葉監督 期待は十分に持っています。彼らは経験という意味ではまだまだ発展途上。去年はすごい活躍をしたし、素晴らしい選手ではあるけど、21年のキャンプ、開幕してからの状態、今年また成長しているのかなというところは見ていきながら判断していきたい。当然、プレミア12のメンバーに入っていない選手の中からも五輪のメンバーに選ばれる可能性は十分にありますから。しっかりとまた若い選手を含めて見ていきたい。

-守護神を担った山崎が昨季は不調だった。今季への期待は

稲葉監督 五輪が延期になったから、そんなに成績という部分では僕はそんなに気にはしていませんでした。成績はあんまり良くなかったことを踏まえて、このオフしっかり彼もトレーニングをすると思うし、どういう形で戻ってくるかという楽しみをしています。不安よりは、どの選手もそうだが、昨年はコロナの影響で開幕も遅れ、日程も変則的になって連戦も多かった。とにかくケガがないようにしっかり頑張ってほしいという思いで見ていたので、康晃(山崎)は成績はあんまり良くなかったけど、来年必ずやってくれるだろうという期待は持っている。

-各球団の4番の活躍が目立った。プレミア12では鈴木が活躍したが、4番の候補は増えたか。

稲葉監督 今のところ、僕の中のイメージでは4番は鈴木誠也。本当に、それ以上の選手が出てくれば、もちろんそこは考えることはあるかなと思うが。昨年の成績も含めて、彼のチャンスでの強さも、ここという時の1発もそうですし。当然、今年の調子にもよるが、プレミア12の大会を見ていても4番をコロコロ変えるのは今のところは考えにくい。

-菅野がポスティング。いるかいないかで先発陣の構想は変わってくるか。

稲葉監督 メジャーを目指す選手は今のところは決まっていない状態。当然、候補という中には入れています。去就が決まった時点でどうするかというのは決めていく。

-セ、パの格差について。格差があるとしたら、育つ土壌としていいことなのか悪いことなのか、どういう影響があるか

稲葉監督 格差に関しては私が申し上げることはなかなかできません。ですが速い球、強い球を打ち返せるスイングの強さ、技術であったり、そういうものはジャパンでも必要だなと感じる。国際大会は投げ方が変則でも球は強くて動くボールを投げてくるので、それを打ち返せる技術、パワー、スイング、スピードは当然、どのバッターでも必要になってくると思う。

-キャンプ視察で久しぶりに選手と対面する

稲葉監督 もちろん楽しみです。20年に関しては私が球場に行っても五輪だと、そこまで選手は考えられないと思った。21年は五輪があるよ、と少しずつ選手にも意識を持ってもらう位置づけにはしていきたいなと思います。

◆選考予想 20年に予定通りに開催されていればプレミア12のメンバーがほぼ主体だったと言える。だが1年の延期で青写真は微妙に変化した。千賀との2枚看板を期待される菅野はポスティング申請し、メジャー挑戦が実現すれば、五輪出場は不可能になる。故障による誤算もある。左のエースだった今永は昨年10月に左肩の手術を受けた。開幕には間に合う見込みだが気掛かりだ。プレミア12でセットアッパーで活躍した甲斐野は昨季は故障で1年間、1軍の登板機会がなく、不透明な状況となった。

一方でプラス材料も多い。大野雄は沢村賞を獲得するなど突き抜け、先発の軸になり得る。長年の課題だった正三塁手も、岡本の成長速度が高まっている。昨年はスペシャリストの枠だった周東は打力が向上。内外野をこなせ、外崎と並ぶユーティリティー性を備え、一気に選出の可能性が現実味を帯びてきた。1年半の空白期間で、稲葉ジャパンも化学反応を見せる。