内村航平(32=ジョイカル)の新たな挑戦が始まった。鉄棒に絞り種目別で金メダルを狙う東京五輪。国内選考会の第1戦で15・166点をマークし、同種目をトップで通過した。団体代表への未練を断ち切り、他5種目のライバルとの代表争いを勝ち抜く。団体枠をかけた個人総合予選では18年ユース五輪5冠、18歳の北園丈琉(徳洲会)が87・332点で首位通過を決めた。18日に決勝が行われる。

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3歳で体操を始めて約30年、五輪選考会は4度目。経験豊富な内村にとっても、この場所は久々の「初」の場だった。

6種目ではなく1種目のみで挑む代表争い。ミスを他種目で埋め合わせられない、一発勝負の連続。鉄棒から落下すれば窮地に陥る。試合前には重圧の違いも予想したが、「初体験でしたが、あまり、感じなかったかな」。終わってみれば、平然と「初」を乗り越えていた。

不安はあった。演技直前の3分間の練習で、H難度「ブレトシュナイダー」でバーを握る感触が違った。「危ないかな」とよぎるが、「いざやると、普段通りに楽に離れ技自体はできたかな」。着地も最小限の乱れに収め、得点も目標にしていた15・133点を突破。「ほっとした」とおなかをさすった。

演技前のことだった。個人総合の予選を終えてサブ会場に帰ってくる選手らに会った。落ち込む後輩を元気づけもし、「非常に頼もしい。同じチームでできないのが残念だな」と言葉が漏れた。

団体へのこだわりは今でも強い。昨年末の全日本選手権後に、種目別の選手でも団体出場の可能性がある選考基準に改訂されると、気持ちはうずいた。跳馬とあん馬に取り組んだ。ただ、やはり体が許してくれなかった。完治しない両肩痛が悪化する気配に「(団体に)入りたい気持ちはあるんですけど、それを追って五輪にいけないより、いけるほうがいい」。再び決断するしかなかった。

個人総合予選1位の北園について聞かれると、「1つ気になってて…」と切り出した。「内村2世と言われてますが、あれは違うかな。あまりプレッシャーをかけないでほしい。丈琉には伸び伸び体操をやってほしい。2世って使っていいの、うちの子どもだけですからね」と笑った。

もう団体はない。ただ、後輩たちに頑張ってほしい。未知の道を進む1つの覚悟が、そのにこやかな姿からも透けた。【阿部健吾】

◆個人枠の代表選考 6種目のスペシャリストが最大で2枠を争う。選考会は全日本選手権、NHK杯(5月、長野)、全日本種目別選手権(6月、高崎)の3大会。各演技の得点を国内外の大会での得点を元にして日本協会が作成する世界ランキングにあてはめ、順位ごとにポイントを与え、5試合の総合ポイントで競う。1位かつ0・2点差以上は40点、1位は30点、2位は20点と続く。鉄棒の現時点の世界ランキング1位は14・933点で、この日の内村は15・166点。今後の大会結果でランキングは変わるが、暫定で40点を獲得したことになる。

○…内村のライバルになりそうな選手は限られる。ただ、そのスペシャリストたちはしっかり結果を残してきた。床運動の南はG難度「リ・ジョンソン」を「今まで一番うまくいった」と手応え十分に、15・433点。世界ランキング1位の15・300点を上回った。跳馬の米倉も「ヨネクラ」などで15・166点。同じく1位の14・966点を超え、暫定40点を稼いだ。