五輪2連覇した個人総合から鉄棒に絞って東京五輪出場を狙う内村航平(32=ジョイカル)が、東京五輪出場を決めた。15・100点をマークし、日本協会の基準を満たし、個人枠での切符を手にした。

この日の演技は細かいミスが続き、満足には遠かった。「最後の鉄棒は全然納得いってなくて、五輪にはいけないなと着地した時に思っていた。行けたと言われても、うれしいより、『これで行っていいんだろうか』と」と本音を漏らした。代表決定後にはライバルだった跳馬の米倉に「本当に申し訳ない」と謝ったという。

団体枠に決まった橋本大輝、北園丈琉の後の演技には「今日の鉄棒でレジェンド、キングと言えないですよね。もっともっと練習しないといけない。橋本大輝と丈琉の、ニュージェネレーションの後に大長老がやって、非常にやりづらかったです」とも苦笑いで振り返った。ただ、4月の選考会からの5演技の積み重ねで決まった代表は、間違いなく新たな挑戦の証しだ。

昨年2月だった。新型コロナウイルスのまん延により五輪が一年延期になる直前、両肩痛などに悩まされ続けた肉体を鑑み、6種目での個人総合から鉄棒に専念する決断を下した。「6種目やってこそ体操」。その信念に突き動かされ続けてきた。いまも苦渋はにじむ。「(団体に)入りたい気持ちはあるんですけど、それを追って五輪にいけないより、いけるほうがいい」。五輪が1年延期になる中、そう心を決めて打ち込んできた。

19年4月の全日本選手権の予選。平行棒で左肩を痛めて落下した。予選落ちに終わり、「笑うしかない。(東京五輪は)夢物語」と掃き捨てるようにいった。あれから2年、個人総合ではなく鉄棒という道で、夢物語は現実になった。

いま追い求めるのは「納得のいく演技」。6種目で見せていた「美しい体操」を、1種目に凝縮して演じたい。細部までのこだわりは、得点では測り得ない内村だけの境地に至っている。それは12年ロンドン五輪から16年リオデジャネイロ五輪まで、個人総合2連覇を達成した当時と同じ心境。

4度目の五輪は、3大会連続の金メダルがかかるが、これまでの3度と立場も種目数も違う。「チームとしてはやらないですけど、いままでの経験などを下の代に伝えないといけない。演技以外にも役割はある。鉄棒以外も頑張っていきたい」と見通す。ただ、変わらないことがある。それは「キング」と形容された、不変の美しい体操を披露することだ。

 

◆個人枠の代表選考 6種目のスペシャリストが最大で2枠を争う。内村が該当する枠は1枠で、全日本選手権、NHK杯(5月、長野)、全日本種目別選手権(6月、高崎)の3大会の選考会で代表権がかかる。各演技の得点を国内外の大会での得点を元にして日本協会が作成する世界ランキングにあてはめ、順位ごとにポイントを与え、5演技の総合ポイントで競う。1位かつ0・2点差以上は40点、1位は30点、2位は20点と続く。6種目の中で1位になった選手が代表に決まった。