「MADE IN TSUBETSU」を世界に届ける。東京オリンピック(五輪)・パラリンピックのメダルケースは、津別町の家具メーカー「山上木工」が製作している。同社3代目の山上裕一朗専務(36)と千葉のデザイナー吉田真也氏(36)がタッグを組んで受注を勝ち取り、ノルマ約5000個は発送を終えた。資本金300万円、従業員22人。人口約4500人の町の小さな会社が、世界的スポーツの祭典で、精巧な技術とアイデア、そしてチャレンジ精神を発信していく。

   ◇   ◇   ◇

東京五輪で表彰台に立つすべてのトップアスリートが、津別の高い木工技術に触れることになる。山上専務は「地方の小さなメーカーでもビッグプロジェクトに携われる。そういう時代になった。どこにでもチャンスは眠っているということを発信できたら」と話した。

祖父松吉さん(故人)が50年に創業し70年。2代目の父裕靖氏(65)は、木材を思い通りの形に仕上げられるNC工作機械を導入した。機械と職人の技を融合した取り組みが評価され、17年に経産省から「地域未来牽(けん)引企業」に認定された。

山上専務は東京の大学を卒業後、愛知の大手工作機械メーカーで設計や製造に携わり、29歳だった13年に地元に戻った。3代目として「自分の代でも形になるものを残したい」と考えていた18年9月、知人からメダルケース作品募集の話を聞き、即座に動いた。

入札期限までは1週間を切っていたが、同社のデザインを手がけてもらっていた吉田氏に連絡。「思いが重なった。寝ないでやれました」。ふたと箱をつける8個の磁石の配置角度を0・5度ずつ変え、約200個の試作品を経て、磁力で正確にふたを脱着、かつ固定できる位置を突き詰めた。渾身(こんしん)の作品は19年春に見事、受注を勝ち取った。

落ち着いた藍色の中に浮かぶ鮮やかな道産タモ材の木目。細かい仕上げは同社職人の手作業、塗装の中心は裕靖さん。磁力で付いているふたは、手でずらすと箱の端でぴたりと止まり、開けたまま飾れるようになる。日の丸を想起する美しい円形の中に、繊細かつ正確な動きが秘められている。

コロナ禍で大会が1年延期。納期が当初より2カ月延びた分、気温や湿度で変化する木工製品特有の長期保管対策に、より時間を費やすなど万全を期した。ノルマの約5000個は発送を終えた。「五輪は東京だけでやるものじゃない。全国で盛り上げていかないと。世界の人が日本に注目している。その1つを担えることに幸せを感じる」。ものづくりにかける小さな街の心意気が、大きなイベントを支えている。【永野高輔】

○…山上専務は18年6月、津別活汲小の廃校舎を活用し、直営店兼ショールーム「TSKOOL(ツクール)」を開業し、自社ブランド家具「ISU WORKS」の展示や販売を行っている。オホーツク(OKHOTSK)、スクール(SCHOOL)、津別(TSUBETSU)、ものづくり(つくる)を連想させるイメージで名付けられた。機械力と職人力を融合した同社の高い完成度は海外でも評価が高く、香港やフランスでも販売されている。新幹線の座席の取っ手や、チャペルのベンチなども製作している。

◆津別町 人口4537人(20年6月末時点)。北海道東部、網走郡にある内陸の町。総面積約716・80平方キロメートル。町名の由来はアイヌ語で「ツペツ(山の出ばなを通っている川)」が通説。町面積の86%を国、道有林が占めており、林業が盛ん。特産品は木工芸品、オーガニック牛乳など。観光スポットはチミケップ湖や鹿鳴の滝などがある。道の駅あいおいの名物スイーツ「元祖クマヤキ」も人気。