男子400メートル個人メドレーで、20歳の井狩裕貴(イトマン近大)が今大会の東京五輪切符1号となった。

自己ベスト4分11秒88を出して、代表内定の瀬戸大也(26)に続く2位。派遣標準記録4分15秒24もクリアした。16年リオデジャネイロ五輪は萩野公介が金、瀬戸が銅を獲得。連続メダルが期待される種目で19年ユニバーシアード大会金メダルの20歳が初の五輪に挑む。

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丸刈りの20歳が、初の五輪切符を今大会1号で手にした。井狩は「この種目はリオで金メダルと銅メダルをとっている。僕もメダルがとれるように頑張る」と宣言した。

前夜に「マイバリカン」で刈った頭から飛び込んだ。背泳ぎで2位浮上。最後の自由形は「このレースのあとはどうでもいい。一生後悔する」と力を振り絞った。へとへとになって「ただただ疲れました」と苦笑い。19年ユニバーシアード大会優勝時の自己記録を更新して「4分10秒を切ってメダル争いに入りたい」。

高1だった16年リオ五輪。大阪府内の寮で見た。二段ベッドがある6畳弱の部屋、小さなテレビの前で1人正座した。萩野の金、瀬戸の銅を見て「20年は難しいかなと。でも400メートル個人メドレーをやめるつもりはなかった」。粘り強く続けたことで、道が開けた。

父に背中を押されている。中3直前の15年3月、父が亡くなった。46歳だった。水泳の記録をつけて、応援してくれる父だった。小学校時代に小さい体が不利だというと「ジャイアント馬場が水泳が速いのか」と諭された。亡くなった直後の全国大会は「心がきつくて。振るわなかった。でもそこからずっと父親がついていてくれる気がする。中3の全国大会で4位に入った時も、最後の後押しをしてくれる感覚があった」。

一発勝負の選考会で、力を出し切って代表を射止めた。どんな舞台に立っても「父は、ついてくれている」と井狩。母珠子さんは「主人は目指せるところまで目指してほしいと願っていたと思います」。個人メドレーの未来を担う20歳が五輪に向かう。【益田一弘】

◆井狩裕貴(いかり・ゆうき)2000年(平12)8月21日、岡山市生まれ。4歳で水泳を始める。中学卒業で親元を離れて大阪へ。近大付高-近大。19年ユニバーシアード大会400メートル個人メドレー金。家族は母と弟。好物は母のハンバーグ。175センチ、70キロ。