16年リオデジャネイロ五輪シングルス銅メダルの錦織圭(31=日清食品)が、イタリア国際1回戦に勝った後の会見で、東京五輪開催について言及した。苦しい胸の内を明かしながらも、「死人が出てまでも行われることではない」と、開催に疑問符を付けた。自身も新型コロナに感染した経験があるだけに、東京五輪組織委員会などに慎重な対応や、早めの具体的な感染対策開示を求めた。試合は快勝し、クレーコート通算100勝目を挙げた。

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東京五輪への思いは切なかった。錦織は会見で何度も言葉を選び、「こういう風にやるよと表明してくれれば、具体的な意見も言える」と悩みながらも、振り絞るように言葉を紡いだ。「例えば」と前置きをし「死者がこれだけ出ていることを考えれば、死人が出てまでも行われることではない」と、疑問を投げかけた。

五輪は好きだ。16年リオでは、五輪後に「五輪に対する考え方が変わった。多くの人のために頑張る気持ち」と話していた。東京五輪も楽しみにしていたが、今は「究極を言えば、1人でも感染者が出るなら、気は進まない」と話す。それも、昨年8月に自身が新型コロナに感染した経験があるからだ。当時は「熱が下がってから味覚がしなくなった」。そんな経験だけは2度としたくない。

テニスは昨年8月の全米から今年2月の全豪まで、感染対策をしながら大会を開催してきた。それでも「今も大会中に、数人は(感染者が)出たりする」。五輪の選手村で感染対策を取っても「リスクはある。100人、1000人の感染者が出るかもしれない。そしたら、あっという間に広がる」と指摘した。

もちろん、「アスリートのことを考えれば、できた方がいい」。だが、あまりにも感染対策への情報が少ないことを訴えた。「どういう話し合いが行われ、どんなバブルが取られるのかもよく分からない」。だから、前日9日に大坂なおみが言ったように「早く議論をして、判断した方がいい」と、大坂に賛同した。

五輪が開催されれば「出ないという選択肢は難しい」と、自身の立場も理解する。地元のヒーローを待ち焦がれるファンの気持ちも痛いほど分かる。それでも、本音は「コロナの患者が出ない時にやるべきかなとは思う」と強調した。

試合は、難敵フォニーニにストレート勝ち。「ほぼ完璧なプレーだった」と胸を張った。次戦は、2月の全豪で敗れたカレニョブスタ(スペイン)が相手だが、30日に開幕する全仏前に、ひと暴れしたい。その全仏が終わった直後の世界ランキングで、東京五輪の出場権が確定する。

◇錦織の新型コロナウイルス感染 昨年8月に感染したことを自身の公式アプリで明らかにした。体調不良に加え38度近くの発熱があり、拠点とする米フロリダで検査を受けて陽性反応が出た。出場予定だった全米オープンを欠場した。当時について「最高37・9度まで熱が出て検査に行った。陽性と聞いてびっくり。発熱から4~5日ぐらいで動き回れるぐらいになった。ただ良くなってから味覚がなくなった。食べ物によっては土を食べているみたいだったが、それも4、5日で戻った」と話した。同9月のオーストリアのツアー大会で復帰した。