【深掘り】指導はシンプルの極み「思い切り振れ」/和田一浩氏の考える強打者論〈3〉

日刊スポーツ評論家の和田一浩氏が展開する「強打者論」の最終回。行き着いた境地は…拍子抜けするほどシンプルでした。(2020年5月21日掲載。年齢などは当時)

プロ野球

日刊スポーツ評論家、和田一浩氏(47)の「強打者論」最終回は「強打者」を育てるために必要な考え方に焦点を当てます。子どもたちへの指導方法から、強打者の応用技術まで、ベテラン遊軍・小島信行記者に解説しました。今回は特に、小中学生の指導者の方、必見の内容です。

★野球観戦の楽しみに

小島記者 前回は「強打者」になるために必要な技術として<1>バットを内側から出す<2>「割り」を作る、を挙げてもらいました。なぜバットを内側から? や、野球の技術解説で頻繁に出てくる「割り」について、とても分かりやすかったです。

和田 技術の解説をする時、この部分を説明するのって難しいんですよ。理解している人に対して話すのはいいんですが、技術に興味のないファンにとっては、まどろっこしくなって嫌になっちゃう。じっくりやれて、僕もスッキリしました。

小島 野球を指導する皆さんが、読んでくれていたらいいですね。野球経験のないファンの方や女性も、この辺りの技術論を理解しておくと、選手の将来性を予想したり、ひと味違った楽しみ方が増えますね。

19年9月、秋田市での野球教室で小学生を教える和田一浩氏

19年9月、秋田市での野球教室で小学生を教える和田一浩氏

和田 でも、プロだって分かっていない選手はたくさんいますよ。バッティングフォームを変えた選手に「どうして変えたの?」って聞く時があるでしょ。そうすると、案外分かってなかったり、間違った解釈をしている選手が結構いるんですよ。

小島 バッティング理論は、個々でいろいろありますからね。でも土台となる基本が違うと、なかなか成長できません。

和田 例えば、右投げ右打ちと右投げ左打ちって、利き手の右手が前後で逆だから理解の仕方も違ってくる。だからいろいろなアプローチが必要なんです。でも過程は違っても、根本的な部分はそれほど変わらない。そこが分かっている選手は、違った意見でもいいところだけを取り入れる。逆に根本的な部分が間違っていたり理解していないと、その時できていても、しばらくたつと忘れちゃう。僕が「遅咲きの選手」と呼ばれるのも、若い時は何も考えずにやってたから。クビになりそうで、必死に考え、教えてもらって打てるようになった。ガムシャラにやるのも必要だけど、頭で理解しないと、自分のものにはならない。

小島 説得力ありますね。プロでも理解してない選手がいるんですから、アマチュアの選手はもっと難しい。指導者が大事ですね。

和田 特に大事なのは小中学生の指導。あまり難しいことを教えても理解できない場合が多い。だから「思い切り振れ!」「遠くに飛ばせ!」「強い打球を打て!」でいい。

小島 先日の宮本(慎也)さんを交えてのクロストークでも「ゴロを打て」の指導は、バットのヘッドが外側から出やすくなって、正しいスイングが身につかないという話でしたね。

★コップの中のノミ

和田 そうそう。今回はそこの技術的な解説はしませんが、小さい子どもの指導者は「バント」や「待て」のサインを頻繁に出してほしくない。とにかく思い切って振らせてほしい。とんでもないボール球を思い切り振ったら、なかなか当たりません。でも、そんなボールを振っていくうちに「こんな球は振っても当たらない」って体で覚える。そうやって打ちにいく中で、ボールを見極められないと。ボール球をマン振りして空振りすると、怒る指導者がいる。性格にもよるけど、怒られると大概の子は「打つ」より先に「見る」から入るようになって、なかなかバットが振れなくなっちゃう。

小島 初球から打ちにいけなくなるってことですね。

和田 コップを逆さまにして、その中にノミを入れておくとコップの高さしか跳べなくなるっていいます。それと同じ。最初にこぢんまりとした打撃を教えると、そこで終わってしまう。思い切って振っていれば体に力もついてくる。振る力がないと本当のバッティングはできないですから。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。