【右投げ左打ちの功罪〈15〉】まとめと提言。日本球界がさらに魅力的になるために

右打ちか、左打ちか。ベテラン記者が膨大なデータから仮説を立て、取材を重ねました。令和の時代に見合った最適解は―。

その他野球

★技術の向上を第一義に

最終章でここまでの流れを総括してみよう。

①日本球界では、右投げ左打ちの比率が異常に高く、プロでレギュラーを目指すなら左打ちが有利

②プロで好成績を残すには、長打力のある右打者が有利

③日本では「好打者=右投げ左打ち」で「強打者=右打者」が多い

④個人の能力を向上させるより、勝利を優先する高校野球で、右打者の比率が減る。俊足の右投げ左打ちの打者が急増する

⑤圧縮バットの禁止に伴い、スモールベースボールが主流になる。正しく理解していないダウンスイングで、強打者が育ちにくい環境になった

⑥大リーグでは右打ち、右投げ左打ち、スイッチヒッターで左右の優劣はない。好打者も強打者も、左右を問わずに分布している

大まかな流れを振り返り、改めて感じたことがある。

野球という競技が誕生して以来、大リーグでは常に「長打力」を重視し、強打者になるための打撃理論を追及している。

一方の日本は「チームの勝利」を重視。個人の打撃も、送りバントや機動力、チーム打撃を求める傾向が強い。「強打」を目的としていない打撃理論が浸透してしまった。

2012年9月16日、犠打を決めるヤンキース・イチロー

2012年9月16日、犠打を決めるヤンキース・イチロー

日本の打撃理論の主流ともいえるダウンスイングも、本来は長打を打つために必要なイメージや感覚を養うためだった。

「ゴロを打て」「フライはダメ」という勝利至上主義の思想が混じることによって、正しく理解し、指導者できなくなったのだろう。

日米のどちらがいいかは賛否両論あるだろうが、日本から大リーグに移籍した選手を見ると一目瞭然だろう。投手の活躍に対し、野手は苦しんでいる。

20年には、日本を代表する好打者の秋山翔吾が大リーグに移籍。広角に打つ技術は日本では武器になったが、逆方向に軽打するスタイルは大リーグでは通用しなくなっている。打撃に関しての日米差は、歴然としている。

ここで、夏の甲子園に出場した全チームの1試合の平均バント数を2000年から年度別に調べてみた。

明らかにバント数は減少している。インターネットを通じて栄養学やトレーニング法の知識が向上し、正しい打撃理論を指導できる指導者も増えはじめているのだろう。甲子園に出るため、甲子園で勝つためには、打撃の向上が不可欠になっている。

良くも悪くもひと昔前と比べると、指導者の強制力が弱くなり、個々の選手の意向が反映される時代へ移行している。

足が速いからと言って、無理やり左打ちにされるケースも減っている。広島から大リーグ移籍する鈴木誠也、ヤクルトの山田哲人、巨人の坂本勇人、広島の菊池涼介ら、俊足の右打者も増えている。

鈴木誠也(2021年11月16日撮影)

鈴木誠也(2021年11月16日撮影)

現時点でプロ野球選手になりたいなら、統計的にも右投げ左打ちが有利だ。しかし正しい打撃指導が行われ、パワー野球が重視される傾向が強くなれば「右の強打者」は間違いなく増えるはず。

現在の日本球界は「投高打低」。「フライボール革命」を代表するように、強打を追及し続けた大リーグの打撃理論が浸透している。しかし、プロアマを問わず、日本の野球界ではレベルアップを妨げる制度はたくさんある。

改善されているとはいえ「プロアマ規定」はその代表的な制度だろう。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。