40代スケーターが紡ぐ五輪の奇跡 就職、結婚…空白の16年間も忘れられなかった夢

フィギュアスケートペアで不惑を過ぎてもなお第一線で活躍し続ける女子選手がいます。カナダ代表のディアナ・ステラートデュデク(41)。8歳年下のマキシム・デシャン(33)と組み、2024年世界選手権では全種目における最年長記録を更新して金メダルを獲得しました。

2025年4月19日まで東京体育館で行われた世界国別対抗戦にも出場。本調子とはいきませんでしたが、壮大な演技で日本のファンを魅了し、今季を笑顔で締めくくりました。

4月20日のエキシビション前に、日刊スポーツが単独インタビュー。壮絶な過去のストーリーを振り返るとともに、1年を切った夢の2026年ミラノ・コルティナ五輪に向けた意気込みを語りました。「Ice Story」としてお届けします。

フィギュア



笑顔で写真に納まるステラートデュデク(左)とデシャン(撮影・勝部晃多)

笑顔で写真に納まるステラートデュデク(左)とデシャン(撮影・勝部晃多)


40歳の奇跡


2024年3月、カナダ・モントリオール。フィギュアスケート世界選手権の舞台、ベルセンターは、熱気と興奮に沸き立っていた。銀盤の真ん中に立つのは、40歳のディアナ・ステラートデュデクと32歳のマキシム・デシャン組。地元カナダを背負うペアだ。

2024年の世界選手権、フリーの演技前に手をつなぎ合わせるステラートデュデク(右)とデシャン

2024年の世界選手権、フリーの演技前に手をつなぎ合わせるステラートデュデク(右)とデシャン

後ろから2番目の滑走で、魂を込めたエレメンツを紡いでいく。最終リフトが決まり、フィニッシュポーズを解いた瞬間、2人は「Oh my god!」と涙にうるませた目を交わし合った。リンクを揺らす歓声が、その演技の圧倒的な完成度を物語っていた。

2024年世界選手権でフリーの演技を行うステラートデュデク(右)とデシャン

2024年世界選手権でフリーの演技を行うステラートデュデク(右)とデシャン

最終滑走は、日本の三浦璃来と木原龍一組だった。演技を終え、キス・アンド・クライで自らの得点が上回れなかったことを確認した「りくりゅう」は、ワイプに映し出された2人に惜しみない拍手を送っていた。

カナダペアが優勝した。

りくりゅうは悔しさをにじませながらも、その姿勢にはすがすがしい敬意が宿った。フィギュアスケートの歴史を塗り替えた新チャンピオンへの、同じ選手としての心からの賛辞だった。

ステラートデュデクは、1896年に始まったこの由緒ある大会で、すべての種目を通じて最年長での金メダルを獲得。10代から20代前半が輝く“若さ”のスポーツで、不可能を現実に変えて見せた。

あれから1年がたち、もう一つ年齢を重ねたステラートデュデクは、当時を静かに回想する。

「まるで夢のような時間だったわ」

その笑顔の裏には、16年間の空白、幾多の試練、そして夢を諦めなかった不屈の魂があった。


就職、結婚…それでも忘れられなかった夢


2025年の世界国別対抗戦 ペアSP ステラートデュデク、デシャン組(2025年4月18日撮影)

2025年の世界国別対抗戦 ペアSP ステラートデュデク、デシャン組(2025年4月18日撮影)


物語は一度、過去へと戻る。輝かしい才能と、過酷な試練が交錯する青春時代だ。

ステラートデュデクは、日本に東京ディズニーランドが開園した1983年に生まれた。めきめきと頭角を現した1990年代後半、シングルスケーターとして米国のジュニアスケート界の星になった。

1999年に全米ジュニア選手権を制し、同年のジュニアグランプリ(GP)ファイナルでも頂点に立った。翌2000年の世界ジュニア選手権では銀メダルを獲得。将来、五輪で活躍する彼女の姿を、国民の誰もが思い描いた。

だが、17歳の若さで未来は暗転した。

左足首の骨折、右足首の靱帯(じんたい)損傷、股関節の大けが、次々と襲いかかる悲劇に、体と心をむしばまれていった。痛みと戦いながらの練習は限界を迎え、2001年、靴を脱ぐことを決意した。

2025年の世界国別対抗戦 ペアSP 演技を披露するステラートデュデク、デシャン組(撮影・宮地輝)

2025年の世界国別対抗戦 ペアSP 演技を披露するステラートデュデク、デシャン組(撮影・宮地輝)

幼い頃から人生の全てだったスケートとの決別。リンクを去るその背中には、到達できなかった夢の重さがのしかかっていた。「やり遂げたって感じがなかったの」と振り返る。

エステシャンとして就職。新たな人生を歩み始めると、なるべく競技を遠ざけるように生きようとした。


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スポーツ

勝部晃多Kota Katsube

Shimane

島根県松江市生まれ。2021年4月入社。高校野球の神奈川担当などを経て、同年10月からスポーツ部に配属。バトル班として新日本プロレスやRIZINなどを担当し、故アントニオ猪木さんへの単独インタビューや武藤敬司氏の引退試合、那須川天心―武尊などを取材した。 23年2月から五輪班に移り、夏季競技はバレーボールを中心に担当。同年秋のW杯や24年夏のVNLなど。冬季競技はフィギュアスケートをメインに務め、全日本選手権は2年連続で取材中。X(旧ツイッター)のアカウントは「@kotakatsube」。