江川マリアはなぜ船上スケーターになるのか 高橋大輔に抱いたプロフェッショナルの憧憬
全日本選手権4度出場の江川マリア(22=明大)が、今年4月から米国の豪華客船「ユートピア・オブ・ザ・シーズ」の船上スケーターとしてプロに挑戦します。このたび日刊スポーツのインタビューに応じ、17年間の競技生活やアイスショーにかける思いなどを赤裸々に明かしました。
フィギュア
笑顔でリンクを去る予定だった
2025年12月21日、東京・代々木第一体育館で開催された全日本選手権女子フリー。ミラノ・コルティナ五輪の最終選考会を兼ねたこの大会で、観客からひときわ大きな声援を受けた選手がいた。
明治大学4年の江川マリア。
坂本花織や樋口新葉、三原舞依ら、一時代を築いたトップスケーターたちが最後の全日本を迎える中、彼女もまた、競技生活の締めくくりとしてこの大舞台に立った1人だった。
今季限りでの引退は事前に公表していたわけではなく、五輪代表争いの渦中にいる選手だったわけでもない。それでも、優雅に氷上を舞う姿や、演技終了後にこぼした大粒の涙が、多くのファンの心を強く揺さぶった。
「なんか、こんなにきれいな終わり方でいいのかなって不安になるぐらい、想像以上にやりきれた感覚があったんです」
本人は泣くつもりはなかった。笑顔でリンクを去る予定だったのに、感情が抑えきれなかった。
「終わった瞬間、観客席からみんなの声が聞こえてきて、うれしいのとホッとしたのでダメでした。いつもの試合だったら、例えばノーミスしても感動して泣いたりはしないんです。だから、勝手に涙が出てきたことが、自分でもびっくりでちょっと恥ずかしかった。キスクラ(キス・アンド・クライ)でも涙が止まらなかったから(笑い)」
この試合を特別視していたわけではない。引退を強く意識していたわけでもない。
「ほんとに引退なんだなっていうのを、逆に自分の涙で気づくみたいな(笑い)。練習の時から引退を意識したことはあまりなかったから」
ただ、その涙は、さみしさや悲しさによるものではなかった。充実感と満足感。そんなポジティブな思いの結晶だった。
「何事もだけど、人生思い通りに行くことの方が少ないじゃないですか。でも、有終の美を飾ることができた。だからこそ、うれしかったんです。自分で言うのは変ですけど、これ以上ない練習をしてきた自信があったから、目標をこんなにきれいに達成することができたんだと思います」
スコアは合計187・29点で、総合13位。強化したフリップ―トーループの連続3回転や、幅のあるダブルアクセルなど、7本のジャンプをすべて降りきった。
だが、その結果以上に、競技者としてスケートを全うできた感触が心地よかった。
いつも120%の大輔さん
福岡市東区出身。5歳で浅田真央に憧れてスケートを始めた。地元のパピオアイスアリーナで中庭健介コーチらの指導を受け、2022年に大学進学で上京。中井亜美や渡辺倫果らが所属する千葉・船橋市のMFアカデミーで腕を磨いた。
明大1年時の2022年から4年連続で全日本出場。2023年には11位の好成績を残したが、海外派遣の夢は最後までかなえることはできなかった。
それでも、17年にわたる競技人生を振り返った時、後悔はないと胸を張って言い切れる。
「試合の直後とかは悔しい思いはあったりするけど、今思い出してみたら、どんな時でも、あの時はあれが精いっぱいだったんだなって思うんです。多分、結果に後悔はあっても、自分がやってきた練習や過程には後悔はないから。そして、今季ほんとに後悔ないぐらいやりきるっていうのが最大の目標だったから、もうそれができている時点でひとつも悔いはありません」
だからこそ、試合後には晴れやかな表情で引退を明かし、次のステップについて前向きに語ることができた。
2026年4月から、米ロイヤル・カリビアンの豪華客船「ユートピア・オブ・ザ・シーズ」の船上スケーターとしてプロの道へ。アイスショーの世界で、新たなキャリアを切り開く。
この進路は、いつしか自然と心の中で決まっていた道だった。
本文残り58% (2150文字/3705文字)

島根県松江市生まれ。2021年4月入社。高校野球の神奈川担当などを経て、同年10月からスポーツ部に配属。バトル班として新日本プロレスやRIZINなどを担当し、故アントニオ猪木さんへの単独インタビューや武藤敬司氏の引退試合、那須川天心―武尊などを取材した。 23年2月から五輪班に移り、夏季競技はバレーボールを中心に担当。同年秋のW杯や24年夏のVNLなど。冬季競技はフィギュアスケートをメインに務め、全日本選手権は2年連続で取材中。X(旧ツイッター)のアカウントは「@kotakatsube」。
-
フィギュア「運動神経めちゃめちゃ悪い」小島志凰 「周回遅れ」の少年が目指す全日本のフリー
「運動神経めちゃめちゃ悪い」小島志凰 「周回遅れ」の少年が目指す全日本のフリー 昨季、全日本選手権に初出場した男子の小島…
勝部晃多
-
フィギュア横井きな結が「今が一番楽しい」と言えるまで 引退シーズン、骨折から追いかけた2年
横井きな結が「今が一番楽しい」と言えるまで 引退シーズン、骨折から追いかけた2年 10月12日まで行われた中部選手権で、…
勝部晃多
-
フィギュア【GP直前フィギュア全力宣言】今季もGPシリーズ全7戦現地取材!プレミアム4周年
【GP直前フィギュア全力宣言】今季もGPシリーズ全7戦現地取材!プレミアム4周年 2月のミラノ・コルティナ五輪(オリンピ…
勝部晃多
-
フィギュア【松田悠良<下>】絶好調で「ここで終わろう」興味なかったコーチ業にのめり込むまで
【松田悠良<下>】絶好調で「ここで終わろう」興味なかったコーチ業にのめり込むまで 日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜…
勝部晃多
-
フィギュア四つ葉135枚の探究心「スケート休んだら成績落ちた」超難関進学校に通う田口湊音
四つ葉135枚の探究心「スケート休んだら成績落ちた」超難関進学校に通う田口湊音 渋谷教育学園幕張高3年の田口湊音(17)…
勝部晃多
-
フィギュア次世代ホープ佐久間陸が目指す34年 ノービス歴代最高得点も「目標はもっと高かった…
次世代ホープ佐久間陸が目指す34年 ノービス歴代最高得点も「目標はもっと高かった」 福岡のフィギュアスケーターのルーツや…
勝部晃多
-
フィギュア鴨井彬莉彩の全日本「二兎」追った先に 偏差値93、数学全国1位 医学部目指し2浪
鴨井彬莉彩の全日本「二兎」追った先に 偏差値93、数学全国1位 医学部目指し2浪 福岡のフィギュアスケーターのルーツや支…
勝部晃多
-
フィギュア石原美和コーチ「失敗するよ」は失敗の種 40年超でたどり着いた「信じる」指導
石原美和コーチ「失敗するよ」は失敗の種 40年超でたどり着いた「信じる」指導 福岡のフィギュアスケーターのルーツや支える…
勝部晃多
-
フィギュア【松田悠良〈中〉】毎月のディズニーランドより「白い靴が欲しい」で始まった競技人生
【松田悠良〈中〉】毎月のディズニーランドより「白い靴が欲しい」で始まった競技人生 日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜…
勝部晃多
-
フィギュア【松田悠良〈上〉】浅田真央とつくる最強のチーム「悠良の力が必要」人生変えた一言
【松田悠良〈上〉】浅田真央とつくる最強のチーム「悠良の力が必要」人生変えた一言 日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日…
勝部晃多
-
フィギュア【中井亜美の言葉】五輪銅後に初の「燃え尽き」経験、今もメダルは「不思議な気持ち」
【中井亜美の言葉】五輪銅後に初の「燃え尽き」経験、今もメダルは「不思議な気持ち」 フィギュアスケート女子で2月のミラノ・…
勝部晃多
-
フィギュア高橋成美さん「一強でなく層の厚さを」りくりゅう引退後のペア語る 単独インタビュー
高橋成美さん「一強でなく層の厚さを」りくりゅう引退後のペア語る 単独インタビュー フィギュアスケート・ペアで12年世界選…
勝部晃多
-
フィギュアフィギュアからパワーリフティングへ 異色転向の友松春奈が見たそれぞれの「当たり前…
フィギュアからパワーリフティングへ 異色転向の友松春奈が見たそれぞれの「当たり前」 フィギュアスケート女子で日本代表とし…
勝部晃多
-
フィギュア【渡辺倫果×住吉りをん】別々に決めた「4年後」五輪への夢 合言葉「一緒に行こう」
【渡辺倫果×住吉りをん】別々に決めた「4年後」五輪への夢 合言葉「一緒に行こう」 ミラノ・コルティナ五輪(オリンピック)…
勝部晃多
-
フィギュア【渡辺倫果×住吉りをん】「シュパシュパ跳ぶお姉さん」今ではパジャマでジャンプ談議
【渡辺倫果×住吉りをん】「シュパシュパ跳ぶお姉さん」今ではパジャマでジャンプ談議 ミラノ・コルティナ五輪(オリンピック)…
勝部晃多
-
フィギュアコーチ坂本花織を追って神戸へ「存在自体が心強い」川勝玲奈16歳の新たな挑戦
コーチ坂本花織を追って神戸へ「存在自体が心強い」川勝玲奈16歳の新たな挑戦 ジュニア3季目を迎えた女子の川勝玲奈(16)…
勝部晃多
-
フィギュア髙橋舞「なんで降りないの?」から始まった10年 幼なじみ鍵山優真と挑むラストシー…
髙橋舞「なんで降りないの?」から始まった10年 幼なじみ鍵山優真と挑むラストシーズン フィギュアスケート女子の髙橋舞(2…
勝部晃多
-
フィギュア【全日本合宿から】「まこにしかできないことを」「新たな章」/山下真瑚&住吉りをん
【全日本合宿から】「まこにしかできないことを」「新たな章」/山下真瑚&住吉りをん フィギュアスケートの全日本シニア強化合…
勝部晃多