【再建ワセダの箱根を追う〈8〉】病魔が襲った「緊張の1週間」花田体制最大の危機/1区

早稲田大学競走部は、48回連続93度目となる箱根駅伝を総合7位で終えた。OBの名ランナー花田勝彦(52)を監督に迎えて2季目。「-Rebuild-再建ワセダを追う」と題し、優勝13回の名門の再建に取り組むチームを追ってきた連載は箱根路での闘いを描く。第8回はチームを襲った危機と、「緊張の1週間」を過ごした選手たちの胸中にあったものとは―。(敬称略)

陸上

 
 
箱根駅伝復路 総合7位でゴールする早大10区菅野

箱根駅伝復路 総合7位でゴールする早大10区菅野

指で作った「W」

白いテープの向こうに見えたのは、走る事がかなわなかった2人のランナーだった。

1月3日、2年連続で最終10区を担った菅野雄太(3年)は視線を前に向けた。ビル群の間を伸びるゴールに続く道、幾重にも重なる観客が両端に構えた先に、その姿が大きくなってくるのが分かった。

北村光(4年)と伊藤大志(3年)だった。

その後ろにも臙脂のウエアをまとった仲間が手をこまねいている。一様に、その顔に笑みを浮かべていた。

「ゴールの瞬間は笑顔で」

レース前、同期とそんな会話をしていたことが、最後の最後、力を振り絞る脳裏に浮かび上がった。歯を食いしばりながら、表情を緩めようとした。

うまく笑えない。でも、何かで示したかった。

とっさに両手を動かした。胸元に引き寄せると両手の人さし指と中指でサインを作った。

「W」

胸元にも刻印された「WASEDA」の「W」を掲げたまま白いゴールテープを切った。

周囲に促され、一番前で迎える役目を担った2人に支えられ、そのままの勢いで仲間の輪の中へ包まれた。

「最後、ゴールする瞬間に前を見たら、本当に笑顔で楽しそうに迎え入れてくれる雰囲気があったので、それには応えようと思って、その場で考えました」

順位は昨年より1つ落とした7位。ただ、集った皆の心中に広がったのは安堵だった。

「本当に読めない展開になると思っていました。逆境の中でシード権を獲得できたことに対してですね。みんなホッとしたんだと思います」

ゴールし引き揚げる早大10区菅野(右)

ゴールし引き揚げる早大10区菅野(右)

花田体制2季目の駅伝シーズン。出雲駅伝、全日本駅伝と目標に遠い結果に直面してきた。箱根への暗雲も垂れ込めるような雰囲気を感じながら、各自が覚悟を持って年明けの大一番へと過ごしてきた。

その最中のさらなる「逆境」。

それはクリスマスに起きた。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。