「自分なんかが優勝して…いいんでしょうか」徳勝龍インタビューを大分析

徳勝龍が幕尻優勝を果たしてから、丸5年になります。

会場内での優勝インタビューは「自分なんかが優勝して…いいんでしょうか」に始まり、笑いあり、涙あり。NHK小林陽広アナウンサーとの息もピッタリでした。

あのインタビューを完全再現し、千田川親方となった今、当時の心境などを振り返ってもらいました。

意外なタイミングでの「水つけ」が、優勝への一因になっていました。

大相撲

笑いあり、涙ありのインタビュー

あの時の徳勝龍の優勝インタビューは、まれにみる充実した内容だった。

2020年1月26日、初場所千秋楽。西前頭17枚目、幕尻の徳勝龍が14勝1敗で初優勝を果たした。

まさかの優勝に驚かされたが、直後の場内インタビューが素晴らしかった。

あれからちょうど5年になる。徳勝龍は2023年秋場所限りで引退し、千田川親方となった。

当時のインタビューを再現し、話しながら考えていたことを振り返ってもらった。すると、優勝できた意外な一因が、判明した。

まずは、約8分にわたる優勝インタビューの一問一答を読んでいただきたい。

徳勝龍の優勝インタビュー(2020年1月26日)

小林アナそれではインタビューです。初優勝です。徳勝龍関です。おめでとうございます

徳勝龍ありがとうございます。(四方に頭を下げる)

小林アナどうですか、今、あらためて国技館の四方を見渡しました。この光景をどう見ていますか

徳勝龍自分なんかが優勝して…いいんでしょうか。(場内が沸く)

貴景勝(下)を寄り切りで破り幕内優勝を決めた徳勝龍(2020年1月26日撮影)

貴景勝(下)を寄り切りで破り幕内優勝を決めた徳勝龍(2020年1月26日撮影)

小林アナもう皆さんですね、結びの一番の大関戦、あの相撲内容を見れば、納得の優勝だと思います(場内大拍手)

徳勝龍喜んでもらえて良かったです。

小林アナどうでしょう。今場所、関取は番付が西の前頭17枚目。幕内では一番下、だったんですね。そんな中で今この場に立っているというのはどうでしょう

徳勝龍えー、自分が一番下なんでもう怖いもんはないと、もう思い切っていくだけだと思っていきました。

小林アナ場所中、大体中盤でしょうか、徳勝龍関が1敗をずーっと守り続けて白星を伸ばして周りからもいろいろと優勝について言われていたと思うんですが、そのあたり

徳勝龍いや、もう、意識することなく…、えー、ウソです。めっちゃ意識していました。(場内大拍手)

小林アナそうですか、あの、昨日、正代関を破って単独先頭になっても意識してないと言っていましたが、あれはウソだったのですか

徳勝龍バリバリ、インタビューの練習をしていました。(場内歓声、笑い)

14日目の取組を終え、国技館を引き揚げる徳勝龍(2020年1月25日撮影)

14日目の取組を終え、国技館を引き揚げる徳勝龍(2020年1月25日撮影)

小林アナいやあ、とてもですね、関取の帰る際の表情を見ているとそうは思えなかったんですけど、ということは、今日、千秋楽、結び、大関貴景勝関との一番が組まれました。この時の思いはどうだったのでしょう

徳勝龍いやもう、ずっと、もう思い切りいけばいいんだと。立ち合いだけしっかり当たればいいんだと。自分に言い聞かせて、ずっと、えー、やってきたんで、千秋楽もそういう気持ちでいきました。(拍手)

小林アナちょうど、今日結びの一番、優勝をかけた一番、時間前の仕切りのところで一口、水を口に含みました。あの時は何か、特別な緊張感があったんでしょうか

徳勝龍喉がカラカラでした。(笑い)

小林アナおそらくそうだろうなと思っていたんですが、ということは優勝というものは土俵上で勝てば優勝というのは常に頭にあったんですか

徳勝龍それは意識せず、この一番集中していこうと思っていました。

小林アナあの、大関貴景勝関、得意の左四つ右上手で追い込んでいっての相撲、ひょっとすると今場所一番の内容だったんじゃないかと思います。あの一番どうでしょう

貴景勝(後方)を寄り切りで破り涙ぐむ徳勝龍(2020年1月26日撮影)

貴景勝(後方)を寄り切りで破り涙ぐむ徳勝龍(2020年1月26日撮影)

徳勝龍いやー、右上手取って、出て行って、土俵際、ちょっと振られた時は危ないと思っていたんですけど、これはもういくしかないかなっていきました。(拍手)

小林アナその危ないと思った瞬間、後押ししてくれたものは何だったんでしょう

徳勝龍そうですね、場所中に、あのー、恩師の近畿大学監督の伊東監督が亡くなって…。(涙ぐむ)

(マイクを下げた小林アナも涙ぐむ)(徳勝龍は涙、右手で目をぬぐう)(場内拍手)

徳勝龍監督が…見てくれてたんじゃなくて、一緒に土俵にいて闘ってくれてたような、そんな気がします。(大歓声、小林アナうなずく、マイク下げる。徳勝龍は涙)

小林アナ場所中に関取の母校、近畿大学の監督、伊東勝人さんが急逝されました。どうでしょう、今、この姿をきっと見てらっしゃると思います。どんな報告をしますか

徳勝龍もうずっと、いい報告がしたいと思って、それだけで頑張れました。弱気になるたんびに、監督の顔が思い浮かびました。

小林アナそして、奈良県出身の力士ということでいいますとなんと、幕内の最高優勝が98年ぶり。大変な快挙です

徳勝龍大変なことをやってしまいました。

小林アナ地元で応援しているファンにもいい報告ができるんじゃないですか

徳勝龍そうですね。いい報告ができると思います。

小林アナ今ですね。館内からも「これからだ、これからだ」と声がかかりました。関取、今は33歳でこれから34歳になる年齢です。若手の台頭がどんどん著しい中で、どう見ていましたか

徳勝龍そうですね。もう33歳じゃなくて、まだ33歳だと思って頑張ります。(大拍手)

小林アナ場所前に関取は今場所は、実は返り入幕でした。先場所は十両でした。ただ、まだまだ常に上を目指すということをおっしゃっていました。今場所のこの結果を受けてさらに上といいますと、どういうところを目指しますか。(徳勝龍、うなずきながら聞く)

(観客から「よこづなー」と声援が送られ、小林アナも徳勝龍も笑い)

徳勝龍いや、もう。いけるとこまでいきたいです。(拍手)

小林アナ来場所は奈良出身の関取にとっては春場所大阪ご当所になります。あらためてどんな相撲を取っていきますか

徳勝龍そうですね、自分らしく、気合いの入った相撲でやっていきます。(拍手)

小林アナ最後になりますが、今日この館内にお母様が応援にいらっしゃっていたということです。一言、ありますか

徳勝龍そうですね、いつもは照れくさくて言えないですけど、えー、お父さん、お母さん、あのー、産んで、育ててくれて、ありがとうございます。(場内拍手)

小林アナ本当におめでとうございます。ありがとうございました

徳勝龍ありがとうございました。(ちょうど約8分)

徳勝龍引退相撲は2月1日に開催。国技館で引退相撲のチケットを売る千田川親方

徳勝龍引退相撲は2月1日に開催。国技館で引退相撲のチケットを売る千田川親方

総一だから頼めた水つけ

あれから丸5年を迎えるにあたり、千田川親方に取材の時間を取ってもらった。

優勝インタビューを振り返るインタビュー

―このインタビューはパーフェクトだと思います。笑いもあるし、涙もある。もちろん相撲の話もしているし、お客さんも喜んでいる。小林アナの質問や間の取り方も素晴らしかったです。

千田川親方小林アナは、あれが初めて(の優勝インタビュー)だったらしいですね。

―小林アナウンサーとはその後、あの時のインタビューについて2人で話したことはありますか

千田川親方いや、それはないっす。でも、自分は「意識することなく」って言って、もうここでもう頭が真っ白になったんですよ。

―そうなんですか

千田川親方本当にもう優勝なんか意識してなかったんです。本当に意識してなくて。今までの相撲の歴史の中やったら、平幕が本割で負けて、決定戦で負けて、「ああ、よく頑張ったね」がセオリーじゃないですか。支度部屋でずっとそれを考えていました。

―ネガティブなことを考えてたんですか

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。