元大関貴景勝の湊川親方が解説に込める思いとは? 5つのポイントを解説

元大関貴景勝の湊川親方(29)が春場所5日目の3月12日に、NHK大相撲中継の解説を務めました。

解説がわかりやすく的確で、多くの相撲ファンから毎回、絶賛する声が相次いでいます。

湊川親方はどういう点に注意しながら解説を務めているのでしょうか。

5つのポイントに絞って、湊川親方の解説を湊川親方に解説してもらいました。

大相撲

春場所5日目のNHK大相撲中継を終えると、湊川親方の解説に感謝する書き込みがXに相次いだ。

「湊川親方の解説は愛があるし、声もいいから聞きやすい」「湊川親方の話を聞きながら取り組み見てるとものすごく面白いです。YouTubeでコーナー作ってほしい!」「湊川親方は、解説でも必ず『○○関』と敬意を持って呼ぶところがすてきだなぁと毎回思う。しかも、解説の内容が細かく鋭い観察眼とご自身の経験に裏打ちされたものなので興味深く、長く聴いていたくなる」。

確かに湊川親方の解説はわかりやすく、勉強になる。

私は大きく分けて5つのポイントがあると感じた。今回、この5点について、湊川親方に聞いた。

湊川親方の解説はここがすごい

  • 取組前の見どころがわかりやすい
  • 取組後、勝因と敗因を明確に語る
  • 番付社会を尊重している
  • 語彙(ごい)が豊富で表現がうまい
  • 力士へのリスペクトがある

(1)取組前の見どころがわかりやすい

押し相撲を得意とする一山本と王鵬の対戦前、湊川親方はこう解説していた。「全然違う押し相撲の両者。距離感が大事になってくる。中間距離で王鵬関。何回もはじきながら相撲を取れたら王鵬関に展開が向きますし、長い手を伸ばして長距離で戦えると一山本関に展開が向くと思う。その距離感を制するためには、立ち合いがポイントになる」。

ともに四つ相撲を得意とする平戸海-熱海富士戦の前には「両者相四つですけど、速攻とスピードの平戸海関と圧力の熱海富士関。面白い対戦です」と両者の特長を簡潔に指摘していた。

見どころを解説する時、気をつけていることは何か。

湊川親方「いろんな格闘技見るの好きで、あまり知識はないんですけど、ボクシングがめっちゃ好きなんすよ。見た時に、この選手はこの強みがあって、それがどうなるかっていうのが見どころですねって言われるだけで、少し知れた気がして、注目して見られるようになります。大相撲って『かいなを返す』とか、いろいろ難しいが言葉ありますけど、テレビで初めて相撲見る方もいますし、このお相撲さんはどういう強みがあるんだろうっていうことも知らない人も多いですから。

僕にとって、ほとんどが対戦経験のある力士たちです。強さも知ってるし、弱さも分かってるんだけど、でも強いところを知ってもらった方が盛り上がるとは思うんで、それを取組前に聞かれたら答えています」

(2)取組後、勝因と敗因を明確に語る

(1)で紹介した一山本-王鵬戦は、一山本の勝ち。湊川親方は放送中、こう解説していた。

「一山本関がいい相撲を取りました。頭を上げず我慢して、(相手に)引かせる相撲を取りました。最近の一山本関のいいところは、近距離でも相撲が取れるところです。昔は長い手を利用した相撲だけだったんですけど、コンパクトに手をたたみながらあごを上げず、長身なんですけど、頭を下げながら攻めることができる。これが一山本関がこの半年くらいで強くなった理由の1つだと思います。王鵬関が引いているのではなく、引かされている一番。王鵬関は引かされてしまったのが一番の敗因です」。

勝因や敗因についての解説があると、視聴者はすっきりする。

この点について、湊川親方の考えはどうか。

湊川親方「何で勝ったのか、どういうところが良かったのかっていうのはできるだけ伝えられればなと思っています。相撲って、押した、まわしを引いて寄り切った、投げたっていうイメージだけじゃないですけど、その中にはいろんな攻防があります。よく、相撲をやったことがない方は『なんで引くの?』って思いますよね。それにはやっぱり理由があって、引きたくて引いてるわけじゃなくて、引かざるを得ない状況になってしまったっていう見方もあるということを伝えたくて…。技術面もそうですが、この力士の取組前の心境も知った方が面白いのかなとは思います。だから、自分が言えることは言いたいし、わからないことはわからない。横綱になってないから、横綱としての気持ちはわからない。だけど、取り組む前の心境としては、わかるものはあります」

(3)番付社会を尊重している

5日目の解説で象徴的な場面があった。

「横綱昇進をかける場所の難しさは?」と聞かれ、湊川親方は、こう答えていた。

「絶対に勝たなきゃいけないという気持ちでいかなきゃいけないんですが、勝ちにこだわりすぎると力が出ない。自分の相撲を取り切れれば優勝が見えてくるというバランスの難しさ、また周囲の期待もありますし、それに応えるという、いろんな気持ちが入るのでその辺の難しさはありますけど。自分は横綱には上がらなかったので、横綱の地位の方に聞いた方がいいと思います」

これはどういう考えで語ったのか。

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。