【春場所こぼれ話 初日~7日目】なぜ横綱が負けても座布団が飛ばないのか?
大相撲春場所は、関脇霧島の優勝で幕を閉じました。
当欄では、取材の裏側などを「こぼれ話」としてお伝えします。
まずは初日から8日目までの「前編」です。
大相撲
人を傷つけないコメント
初日
大阪の人が好きだという外国出身力士は多い。約2週間前、番付発表の日に安青錦関もそう言っていた。
音羽山親方(元横綱鶴竜)は現役時代、「大阪の人、オレは好きです。モンゴルの人に似てる気がするんです」と言っていた。夜の御堂筋が好きだとも言っていた。
喜怒哀楽が比較的はっきりしていて、東京の人よりもはっきりものを言う。そんなところが、受け入れやすいのだと思う。
さて初日。いつも通り、確認したいことが多い。
親方衆の「もぎり割」(木戸番のローテーション表)を見ると、追手風親方(元幕内大翔山)が復帰していた。3場所続けて休場だったが、顔色は良さそう。木戸終わりに声をかけると、いつも通りにきさくな感じで話してくれた。
「手術は5、6回。胆嚢も取った」と、すごいことをさらりという。
初日は特に本場所前にあった話題を、あらためてきちんと聞くことも意識している。「踊る!さんま御殿!!」に式守伊之助さんが力士以外として1人だけ出演していた。昨年12月の巡業中に出演のオファーがあり、協会や師匠がOKなら問題ないとして受け入れたそうだ。「さんまさんから『式守さん』って呼ばれてましたね?」と話を振ると「間違いじゃない」と、気遣いの人らしい答えを返してくれた。行司は木村姓と式守姓しかないため、「伊之助さん」のように下の名で呼ぶことが一般的。これは落語家や歌舞伎役者と同様だ。
この様子を記事にすると後日、ある協会員が「誰も傷つけない素晴らしいコメント。頭がいいよなあ」と言っていた。その通りだと思う。
十両に復帰した島津海関が、すごい色の締め込みを締めていた。本人いわく「カナリア色」。写真で見る以上に、実物を見るとまぶしい。「誰もみたことないし、明るい気持ちになる」と前向きに話してくれた。実は協会からダメ出しされないか、心配もしていた。この時はまだ、数日後に先代(元大関若嶋津)の訃報が届くなんて想像もしていなかった。
阿炎関が腰から背中にかけて、かなりのテーピングを施していた。ケガなど状態が悪いのだろう。ズバリ聞いたが「大丈夫です」しか言わない。気持ちは分かるので、それ以上は突っ込まない。
伯乃富士関が取組後に取材に応じた。伊勢ケ濱親方(元横綱照ノ富士)から暴力を受けた件、「ご迷惑、ご心配をおかけして申し訳ありません」とコメントした。協会は暫定措置として、師匠は本場所休場としたが、稽古場では指導可能とした。伯乃富士関が師匠への変わらぬ信頼を口にしており、納得しているのであればよいが、果たしてこの暫定措置は適切なのだろうか。今回のケースには当てはまらないだろうが、一般的には暴力を受けた側の気持ちを考えると慎重になる必要があると思う。
ニセ警察詐欺に注意
2日目
3月9日、清見潟親方(元関脇栃煌山)が39歳の誕生日。「誕生日おめでとうございます」と声をかけると、驚かれた。「今日、妻以外から言われたの初めてです」。大阪では、後援者から春日野部屋への差し入れが多く、太ったという。
館内で、大阪府浪速警察署による催し物があった。「ニセ警察詐欺の仮想体験」を呼びかけており、荒磯親方(元関脇琴勇輝)が体験しているところを取材させてもらった。
幕内終盤は八角理事長(元横綱北勝海)の取材に加わった。最後の3番、NHK中継を見ながら所感をもらう。中継の解説は、理事長の弟子、君ケ濱親方(元関脇隠岐の海)だったため、放送中のコメントに時々突っ込みを入れていた。
新弟子獲得への秘策は…
3日目
この日から前相撲が始まった。今年は春場所なのに新弟子検査受検者が20人しかいないため、班分けせず実施された。例年、春場所は新弟子が多く、1994年以降は2班に分けて1日ごとに交互に行ってきたが、残念ながらその必要性がなくなってしまった。
さあ、前相撲の取材に行くかと思っていたところで、阿炎関休場の知らせ。残念ではあるが、初日からの相撲を見る限りやむを得ない。ほどなく診断書も出た。錣山親方(元小結豊真将)に事情を聴き、再出場の可能性があることを知った(9日目から再出場した)。
友風関が今場所初白星。場所前に、結婚について急きょ取材させてもらったお礼を伝えた。「踊る!さんま御殿!!」で妻子の存在を公表することになったのは、想定外の流れによるものだったそうだ。「反響は大きいですね。道を歩いていても、知らない人から『結婚おめでとう』って言われました」。
某親方が、新弟子が少ないことを心配する話。「例えば日刊スポーツが入門希望者を何人か集めて、ドラフト会議をやる。参加する親方は会費制にして、必ず1人は獲得できるようにする。その収益を入門希望者と日刊スポーツで分配する。どう、これ?」。現実的ではないが、それほどまでに新弟子獲得に苦労している部屋が多いことを実感する。
幕内終盤は八角理事長(元横綱北勝海)から審判長の取材へ。藤ノ川関が初金星。審判部の前で待っていると、ビデオ室から甲山親方(元幕内大碇)が出てきた。通常なら結びの決まり手が確定するとすぐに帰宅されるはずなのに…。まずは祝福の声をかけさせていただき、「喜びをかみしめていたんですか?」と聞くと「インタビューまで聞いていた」。この数分間で、LINEが100件以上も届き、返信しきれていないという。親として最高の瞬間だ。
懸賞袋の行方
4日目
3月11日。東日本大震災があった午後2時46分、土俵の進行は止めないものの、日本相撲協会は各部署ごとに黙とうを捧げた。
どこに取材に行くか考え、私は引退相撲のチケットを売っていた桐山親方(元関脇宝富士)と大山親方(元小結北勝富士)のもとへ向かった。
15年前のあの日、2人は何をしていたのか。本来なら春場所の時期だが、当時は八百長問題の影響で本場所が中止になっていた。
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1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。
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