【38歳の最古参関取・佐田の海(下)】境川親方とともに、父の番付を追って23年…
佐田の海(38=境川)は15歳で入門してから23年間、ずっと父の背中を追い続けています。
父は元小結佐田の海。しこ名を受け継ぎ、最高位が前頭筆頭の佐田の海は父の番付を常に目指し続けています。
父との関係、そして師匠の境川親方(元小結両国)との絆―。体を張り続けられる理由は、人と人とのつながりにありました。
大相撲
◆佐田の海貴士(さだのうみ・たかし)1987年(昭和62年)5月11日生まれ、熊本市出身。本名・松村要。父は元小結佐田の海。中学卒業後、父の弟弟子である元小結両国の境川部屋に入門。2003年春場所初土俵。2010年名古屋場所新十両、2014年夏場所新入幕。最高位は西前頭筆頭。三賞は敢闘賞3回。金星1個(日馬富士)。得意は右四つ、寄り。182センチ、142キロ。
「師匠のこと、尊敬しているか?」
師匠と弟子。
相撲界では切っても切れない関係だ。相撲部屋に入門すると、力士の意思でほかの部屋に移籍することはできない。師弟関係は絶対だ。
力士は厳しい稽古を強いられる。関取でなければ、雑用も多い。単なるスポーツにとどまらない大相撲は、修行の側面もある。力士の口からはつい、師匠へのぼやきや不満を聞くこともある。
ただし、境川部屋の力士からは一切、それを聞いたことがない。
男が男にほれる。師匠として、人として尊敬し、親子のような関係を築いているのだ。
佐田の海はある時、父からこう聞かれた。
「師匠のこと、尊敬しているか?」
いつごろ聞かれたのかは、もう覚えていない。関取に上がった後、若いころだと記憶している。
佐田の海が「もちろん、尊敬しているよ」と答えると、父は「そうか。師匠を尊敬できるのは幸せなことだ」と話したという。
境川部屋に入門して良かったことは何か。
「そもそも、自分がこの年までできていますから。境川部屋に入門できて、境川親方の弟子になれたこと。親方に愛情をかけてもらっているなと思いますし、親方のことをかっこいいなと尊敬できる。自分が父みたいな相撲を取りたいと思って入門して、その自分の考えをくんでくれて、そういう指導をしてくれる。(師匠は)父と肌を合わせて相撲を取っています。よく知っている人の弟子になれた。肌で感じた人と、ただ見ていた人とでは違いますから」
境川親方の言葉は、胸に響く。なぜか。
「まっすぐに、正直に生きているからじゃないですか。後ろ指を差されるような生き方をしてないじゃないですか、ウチの親方は。義理人情に厚いんです」
序ノ口で負け越した
父・松村宏司さん(68)は出羽海部屋の力士だった。最高位は小結。31歳で引退して出羽海部屋の部屋付き親方となり、43歳だった1999年に日本相撲協会を退職した。現在の境川親方が入門してから引退、独立するまで13年以上、出羽海部屋でともに過ごした関係にある。
佐田の海が1歳の時に父は引退した。相撲を直接見た記憶はないが、家に残っていた現役時代のビデオは全部見た。
幼少時から出羽海部屋に出入りし、かわいがってもらった。
幼稚園の時には、将来は力士になることを夢見た。
子供のころは、野球に熱中した。あえて相撲をやらなかったのは、父の方針だ。相撲は素人、まっさらな状態で角界入りした。
「男を磨くなら、中立部屋(当時)だぞ」
父からこう言われて、入門を決めた。
師匠が名跡を交換して境川部屋となり、2003年春場所で初土俵を踏んだ。
前相撲をへて、5月の夏場所で序ノ口デビュー。体は細く、相撲は素人。最初の場所は、3勝4敗で負け越した。
名古屋場所の幕内力士42人のうち、序ノ口デビュー場所で負け越したのは、佐田の海だけ。のちに幕内に上がる力士にとって、序ノ口は単なる通過点にすぎない。
42人中、12人はアマチュア時代に実績を残して付け出しデビューを勝ち取った。この12人は、そもそも序ノ口を通過もしていない。残り30人のうち、13人は序ノ口優勝を果たした。残り17人のうち16人は勝ち越し、負け越しは佐田の海しかいない。
史上41組目の親子力士、という威光だけで勝てる世界ではない。完全な「たたき上げ」だった。
弱くても逃げなかった。
力士が突然脱走してしまうことを、角界では「スカす」と言う。なじめなかったり、稽古がつらくて耐えられなかったり、理由はさまざま。スカしてしまう力士は昔も今も珍しくない。
佐田の海は、1度もスカしたことがない。
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1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。
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