6日に開幕した小田原モーニングは、石井寛子(36=東京)の通算500勝と、全場制覇という2つの大記録が話題を独占した。
前検日の5日から石井は自分自身と戦っていた。あと2勝に迫った大記録の話を振ると、「達成したら大いに盛り上げて下さい」と語るにとどまった。つまり「達成までは騒がないで」のサインだ。
初日の499勝目は、硬さが見えた。勝つには勝ったが、鈴木奈央の巧みなペース操作にてこずり、「何をやってんのというレースをしてしまった」と自嘲気味に笑っていた。
これまでガールズ初の通算獲得賞金1億円、優勝回数100回(現在は138回)など、数々の金字塔を打ち立ててきた。そんな石井でも、記録へのプレッシャーは想像以上だった。
初日に取材していたのはスポーツ紙2社、専門紙2社のみ。記録達成が懸かる2日目になると、スポーツ紙は5社、専門紙は3社に増え、カメラマンも入った。「急に記者さんの数が増えて、やめて~と思った。いつも通り、いつも通り…と自分に言い聞かせました」。意識的に視線を避けるので、こちらにも彼女の緊張感はひしひしと伝わっていた。
大記録達成の瞬間を、前のレースを走った鈴木美教、鈴木奈央らと見届けた。打鐘過ぎの4角で石井がアクションを起こすと、検車場がどよめく。大事な場面で石井はリスクを恐れず、先行で逃げ切ったのだ。
2人の鈴木は「かっこいい! しびれた!」と興奮気味。荒川ひかりは「すごい。寛子さんは人として本当に尊敬できる」と、最大級の賛辞を贈った。
心の重しが取れた決勝は、いつもの石井だった。鈴木美教との直線勝負をなめらかな足の回転で制し、自身の持つ全場制覇の記録を上書きした(小田原は昨年10月からガールズ開催がスタート)。
選手人生は5月で10年目に突入した。石井はただ勝つのではなく、美しく勝つのが身上。デビュー以来、失格が1度もないクリーンファイターだ。
レースを離れても、その振る舞いは一流で、どこかで災害や有事があれば、寄付を続けてきた。その背中を後輩たちはしっかり見ている。「まだ1、2期生しかいなかったころは、しんどい思いもいっぱいしました。でも、2日目はみんながお祝いしてくれて」と一瞬、声を詰まらせた。
道なき道を進み、前人未到の記録を作り続けるガールズケイリンの偉人は、今後の目標に「神山雄一郎さんの記録(現在893勝)ですね」と、男子のレジェンドの名を挙げた。【松井律】