脇本雄太(31=福井)の強さだけが際立つフィナーレだ。2周近くを逃げ切り、2年ぶり2度目の寛仁親王牌Vを楽々と決めた。G1制覇は通算5度目となった。グランドスラムとKEIRINグランプリ(GP)出場権獲得を目指した新田祐大(34=福島)は届かず2着。飛び付きを狙った賞金ランクトップの松浦悠士(29=広島)も4着で、見せ場を作れなかった。

   ◇   ◇   ◇

脇本が強さの向こう側へと旅立った。「先行日本一」の看板を背負う男は、G1決勝の舞台でも自分の走りを堂々と貫ける。ともに世界で戦う新田だけはゴール前まで諦めなかったが、それでも脇本との力の差を感じさせてしまう内容だった。

「残り2周前にけん制されたけど、そこの勝負には負けたくなかった。踏み出した時に新田さんより前にいたので、2周踏めると思いました」。ヒリヒリするような死闘から解放され、4日間で初めて笑顔の会見となった。

「先行にこだわり、逃げ切りでG1を勝てたことがうれしい。これでGPにも弾みがつくと思います」

金メダルを目指す東京五輪の延期が決まり、一時はモチベーションの行き先を失った。しかし、五輪が1年延びても、脇本には競輪があった。目標を「GP優勝」に切り替えられたことで、落ちてしまいそうな心を持ち直せた。

決勝を見届けた昨年覇者の村上博幸は「S級上位がチャレンジ戦のようなレースになった。こんなにも変わるのか…」とため息を漏らした。

この1、2年で競輪界は急速にレベルが上がった。脇本、新田が世界と互角に戦い、またその2人を目指す才能ある若手が次々とナショナルチームに送られている。チームBの新山響平は、脇本の強さを「自分がああなる姿は想像できない」と評した。前例のない“スピードモンスター”の今後は、誰にも想像がつかない。【松井律】

◆脇本雄太(わきもと・ゆうた)1989年(平元)3月21日、福井市生まれ。科学技術高卒。競輪学校(現養成所)94期生として08年7月12日福井でデビュー(1<1>(2))。今年2月の世界選手権ケイリンで銀メダル。東京五輪自転車トラック日本代表。G1は18年オールスターで初制覇し、今回で5度目V。763戦282勝。通算獲得賞金は、6億8602万1600円。180センチ、82キロ。血液型A。