僕は現役でJリーガーとして活動しながら、スポーツメンターとしても活動している。具体的には、まずはじめに、現役Jリーガーや学生、社会人を対象にヒアリングを行う。そのヒアリングの目的はその対象者の「目的」を聞き出すこと。このヒアリングで一番のポイントはその目的に対してどんなアプローチをしているかだ。
それが目的に対する「本気度」を表す。
ある青年はアメリカでビーチサッカーをしていた。ビーチサッカーを普及させたいという目的だったが、そこに対するアプローチはどこかきれい事となっていた。そんなときにはすかさずこう伝える。
「本当にそう思っているのか?」
これに対して、なぜ? どうして? を繰り返し尋ねることで、本人自身がどこまで真剣に本気でその目的に対してアプローチしているかがわかってくる。
その結果、彼が本当にやりたかったことは「ビーチサッカーをしながらアメリカでスローライフを送ること」。要するに、大好きなことをしながら生きたいように生きるということ。
なぜか人はこういった生き方をすること、それを夢だと語ることに抵抗があるようだ。その結果、どこかに後ろめたさがあり、きれい事を使って本心とは違うところで頑張ろうとする。
それで思いがかなうことなどない。
そういったことを踏まえて考えると本田圭佑選手は「自分がこうしたい」と思うことに素直になり、発言し行動しているように思う。僕は彼に一度も会ったことはないが、彼の言動、行動の裏には、自分に対して正直になり、わかったふりなどせず正面から向き合っている気がする。
選手と話す中で、「何がしたいのかわからない」「明確な将来像がまだない」などの不安の声も聞く。スポーツメンターはそんな不安を取り除くために存在する。
皆さんにも考えてもらいたい。これは、アスリートだけに存在する不安なのだろうか?
学生であれば、自分のやりたいことがわからない。自分のやりたいことはあるがどうしたらいいかわからない。社会人であれば今の職業のままでいいのかという悩み。僕らは自分のことをわかっているようでわかっていない。
それは自分の性格、好みとかそういったことではなく、今ある当たり前の環境や自分の好きなことが武器になるということを。ただし、その武器は磨かなければ武器として強みにはならない。
多くの人がこの磨き方をわかっていないことが多い。
僕は40歳でJリーガーになった。それは、自分の武器を徹底的に磨いたからこそJリーガーになれたと思っている。その武器とはコミュニケーション能力だ。
現役を辞めてから15年間のブランクがあった。あまりにも時間を空けすぎたことでスキルやフィジカルでは到底太刀打ちできないことがわかっていた。
15年間、現役選手がやってないことで、僕がやり続けたこと。それは、スポンサー交渉やイベント統括、選手マネジメントやセミナー、これら全てはコミュニケーション能力を最大限に生かしたものだった。
大手企業から総額1億円近くをスポンサーしてもらい、世界的なイベントの日本大会を統括し、日本代表選手のマネジメントを行った。
この能力を最大限に生かし、水戸ホーリーホックの練習生として参加したときから、選手1人1人と積極的にコミュニケーションをとり、偉そうにもチームがうまくいっていないときは監督、コーチ、選手の前で堂々とチームを鼓舞することもした。
自分が好きなこと、興味があること、好奇心があること。これをこのままにせず、好きを大好きにし、興味をマニアにし、好奇心を熱狂に変えるまでやり続けることが必要なんだ。
僕らは、気がつけば外的要因に左右されすぎている。僕らが今こそ大事にするべきは内的動機を発動させ、徹底的に自分と向き合い、自分の武器を磨くことだ。
本田圭佑選手がすごいのは、サッカー以外の時間を自分の武器磨きに使っているということ。発信している内容や行動をみると好奇心から入りそれに夢中になり、没頭し、熱狂している感じが伝わってくる。
どこにいても、どんな情報でも取れてしまう時代ではあるが、それとは別に、どこにいても自分とは何者なのかということに気が付きにくい時代でもある。
セルフプロデュースとは、内的動機を発動することだと感じている。
スポーツメンターはそんな自分を発見できる存在でありたいと思う。(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「0円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)
◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。18年、J2水戸と40歳でプロ契約。19年にYS横浜へ移籍。開幕戦の鳥取戦で途中出場し、ジーコの持っていたJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を上回る41歳1カ月9日でデビュー。