Jリーグのサマリーリポートによると、2019年のスタジアム観戦者の平均年齢は42・8歳となっています。40代が26・9%と最も多く、続いて50代(20・5%)、30代(16・8%)と続きます。前年度より0・9歳上がっているというデータも出ているそうです。

少子高齢化の日本では、これからますます平均年齢は上がっていくと思います。そう考えると、Jリーグはもう1度、昭和を取り戻し、65歳以上が観られるプロサッカーリーグという立ち位置を取り直した方がいいのではないかと思うのです。

国立社会保障・人口問題研究所が出したデータによると、これから高齢化の流れはさらに進み、人口も2030年には現在から約600万人減り、約1億1912万人ほどまで減少すると言われています。そして、そのうちの31・1%にあたる約3715万人が65歳以上の高齢者となることが分かっています。つまり、3人に1人が65歳の高齢者となります。

この状況を鑑みても、これからのJリーグはいま一度あのJリーグ創成期の盛り上がりを知っている人たちに向けてかじを取り直すべきだと僕は思います。

若者は移り気です。たくさんの娯楽がある中で、90分以上ひとつのものを見続けることが苦しいと思う若者も増えてくると思います。Jリーグがもう1度昭和を取り戻せば、ベテランの価値が上がります。

Jリーガーといえば?という質問を一般の中でした時に誰が真っ先に挙がるでしょうか。きっとそれは日本を窮地から救ったヒーローたちだと思います。ワールドカップ(W杯)などを経験したベテランを残すことで、一度サッカーから離れた50代、60代をもう一度取り戻し、クラブもベテランの価値運用をするべきだと思います。

40代のベテランばかりを集めるチーム作りというのもひとつの方法だと思います。この先の未来において、そんなクラブが出てくる時が来るかもしれません。サッカーというスポーツの特性を考え、世の中の人口推移を見て、もう1度Jリーグの価値を再構築する必要があるはずです。

サッカーは不確かで、余白を楽しめるスポーツです。サポーターやファンが感情移入するのはレフェリーが余白を作ってくれていることも要因としてあると思います。試合中は明確なファウル以外は、はっきりとジャッジできない瞬間の応酬です。それがあるからこそ1点も入らないゲームでもサポーターは熱狂し、ファンが興奮するのだと思います。

しかし、今はどうでしょうか。VARを推奨するあまり、その余白がなくなってきているのではないかと感じています。本当に正確なものを機械が判断すると盲信し過ぎだと思いませんか。ボールがゴールラインを割ったかどうか。機械が正確だという証明は誰にもできません。わかるのはレフェリーの明らかなミスのみです。そこを責めることに発展はあるのでしょうか。

このままでは気がつけばVARに支配されるスポーツ界になってしまいます。サッカー界は自ら「だったらウイイレでいいじゃないか」と言わせる方向に向かっているようなものです。野球は審判と共存しているし、リスペクトしています。今日の審判は「ここまでがストライクか」とか「今日は低めをとるな」とか。そうやって受け入れながら、人間と人間の駆け引きを楽しんでいる部分もあります。サッカーはいつからそこを楽しめなくなったのでしょうか。

テクノロジーがスポーツの醍醐味(だいごみ)である余白を越えようとしています。VARも100%正確だとは誰も証明できません。もっと言えば、誰かが操作することも可能です。どのクラブもそうですが、今だけのことを見ずに、日本サッカー界が発展していくために100年先を見た議論をしていくべきです。 選手も同様に、自分のことだけを考える割合をもう少し減らし、自分が大好きなサッカーの未来に目を向けて欲しいです。そのためにも日本サッカー界は昭和を取り戻し、あの熱狂と興奮を知っている世代を再熱させる努力が必要だと思います。(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結ぶも開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退した。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設した。175センチ、74キロ。

K-1ファイター愛鷹亮の自宅トレーニング場で指導を受ける安彦(右)
K-1ファイター愛鷹亮の自宅トレーニング場で指導を受ける安彦(右)