前回はカタールに移籍した中島翔哉選手と、そのカタールについて少しお話をしましたが、レアル・マドリードMBAの同期にカタールから来ていた友人がいたので連絡して様子を聞いてみました。

2015年前後から、突如バイエルン・ミュンヘンやシャルケ、マンチェスターU、パリSGといったビッグクラブがプレシーズンのトレーニングキャンプにカタールを選びだしました。それには大きな理由がありました。

国家プロジェクトでもある「アスパイア・アカデミー」の存在です。アスパイア・アカデミーは2004年に設立され、最上級の若年男性カタールアスリートの発見と育成を目的とした、いわゆる“トレーニングセンター”です。同時にレベルの高い学校教育も提供しており、学業とスポーツの2軸に主眼を置いた、いわばヨーロッパ・フットボールクラブに似た組織となっているように聞こえます。

カタールの人口は約264万人と、周辺国のサウジアラビア(約3,300万人)アラブ首長国連邦(約940万人)やクウェート(約414万人)と比べて比較的少ない部類に入りますので、若年層を囲い込んで育て上げることは国家レベルでの競技に対してはとても重要であると考えられているということです。

まさにヨーロッパのトップクラブが保持するようなスタイルで、スポーツ競技の向上だけでなく、学校やスポーツの各種連盟と協力しあうことでより集中して競技レベル向上に集中することができるということで、多くのスポーツアスリートのための組織となっておりました。しかしながら、昨今では国家施策でもあるサッカーにその多くが集中しているということで、もはやサッカーアカデミーといっても過言ではない状況にはなっているようです。

そしてこのアスパイア・アカデミーはシンガポールにも拠点を保持しており、ブランディング・資金集めというビジネス部分にも精通しているように見えます。

ちなみにですが、ベルギーの古豪オイペン(豊川選手所属)や、スペイン下部のクルトゥラル・レオネッサ(過去、井手口選手が所属)はこのアスパイアグループが買収。つまり、アスパイアグループとしてカタールで育て上げた選手をヨーロッパでプレーさせるというインフラも整えているわけです。ひょっとしたら、すでにこの頃からカタールはよりレベルの高い日本人選手の獲得を検討していたのかもしれません。

基本的にアスパイア・アカデミーは、カタール国内でしっかりと教育をしてそのレベルをヨーロッパまで引き上げ、その後海外に送り出すというやり方です。本場に出た時に言葉やプレー面で不自由がないようにしておけば、本場でも通用するのでは?という考え方で、今回のアジアカップで大活躍をし、日本との決勝戦でも3点目となるPKを決めたアフィフ選手もアスパイア・アカデミー出身です。現在22歳ながらセビージャやビジャレアルのユースで活動し、その後オイペンでプロ契約した後、ビジャレアル、ヒホンを経由して昨年からカタールに戻っています。

友人によればアスパイア・アカデミー出身の選手は引退後も仕事を与えてもらえるなど、かなりカタールの中でも待遇が良いと評判とのことで、そんなところでスペインの至宝と呼ばれたシャビがコーチングを勉強しているとなれば、世界中から注目を浴びるもの理解できます。

日本も90年代から大きく飛躍を遂げ、アジアの上位国として君臨しつつありますが、育成という部分にもっとお金を回していくことも必要なのかもしれません。国家施策や政治が絡んでいるとはいえ、中国、カタールといったサッカー後進国がスポーツに国家レベルで大金を投じるこの世界。これぞフットボールの魅力なのかもしれません。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)