これまでファイナンシャルフェアプレー(以下FFP)の導入が及ぼしている影響についてお話しさせて頂きました。その中で早速ACミランが制裁第1弾ということで来季のヨーロッパリーグ(EL)の出場権を剥奪(はくだつ)されております。

何が引っかかったのかというと(UEFAは直近の3年間のファイナンス状況を見ており)2017年に「1シーズンにおける支出が収入を上回ってはならない」という定めを破ったとして、2018年6月に1度処分を下しておりました。これに対してミランはCAS(スポーツ仲裁裁判所)に不服を訴えておりましたがUEFAの最終決定は来季の獲得していたヨーロッパリーグの出場権剥奪。外部のメディアによると、どうやら2017年夏に選手を補強すべく2億ユーロ(約245億円)を投じたことが規則違反となったとのことでした。

今回の件は、クラブの収入と支出の関係からすると簡単に選手を獲得する事はできないといということを暗に示している事案である気がします。しかしクラブは勝利のために良質の選手を獲得・保持しなければなりませんし、この動きを止めてしまうと勝利の確率は下がってしまいますし、単なる戦力ダウンとなれば、確実に勝利(勝ち点の獲得)を求められる現場スタッフ陣にはストレスがたまることでしょう。


今回は、先日、日刊スポーツでも報じられていましたが、中島翔哉選手の獲得がうわさされるポルトガルリーグのトップ3クラブを見てみたいと思います。モウリーニョ体制時に欧州チャンピオンズリーグ(CL)を制覇したポルトですが、昨年の売り上げは約1億720万ユーロ(約129億円)でしかありません。期限付き移籍からの買い取りオプションなど、条件面がまとまるか注目です。

ジョアン・フェリックスを1億2600万ユーロ(約151億円)という大金で売却を決めたベンフィカはどうでしょうか。この時点で移籍金は前述のポルトが稼いだ1年分の売り上げを大幅に超えてしまっているのですが、ベンフィカ自体の昨年の売り上げは1億2150万ユーロ(約146億円)になります。クラブが1年かけて売り上げる金額を1選手の移籍で手にしてしまうほど(そのままこの移籍金が入ってくるわけではありませんが)の規模であることを考えると、クラブの選手売却決定も理解できるような気がします。

特にベンフィカはファイナンシャルリポートを見てみるとここ5シーズンに渡って毎年のように2000万ユーロ(約24億円)近くの赤字計上をしておりましたから、この移籍金が非常に大きなものとなることは明らかでもあります。泣く泣くと言いつつ、クラブの運営を考えると、裏では笑顔で手放しているというのが現実なのかもしれません。

そして3強の1つでもあり過去、田中順也選手(現神戸)も所属したスポルティング。こちらも2強同様で約1億4000万ユーロ(約168億円)の売り上げがありました。しかしながらその内訳の中で選手売却益が50%近くを占めているとの情報もあり、これが正しければ、実質の売り上げは約半分の7000万ユーロ(約84億円)前後になってしまいます。

今回取り上げた3クラブはデロイトのファイナンシャルリポートではヨーロッパクラブの中で30位にも入って来ず、ポルトガルフットボール界の事情は非常に厳しいものです。しかしながらわずか1、2億円の金額で獲得した選手が40億円、50億円、時には100億円を超える金額で売れてしまうという夢のような話が目の前にあり、それはクラブだけでなく選手にも夢があります。特に近年のポルトガル代表の活躍を見ると、なんとかギリギリの状態で経営されているクラブから生まれている大きな力にその秘密を感じることが出来るかもしれません。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)