ヨーロッパ市場はコロナの影響でいまだ無観客が続いています。各クラブの営業数字が一向に見えておらず、当然グッズの売り上げも落ち、なかなか上昇の兆しが見えていない状況です。そのような中、スタジアム改築の話がいくつか再浮上しておりますので、スタジアム改築に絡めてクラブを見てみたいと思います。

今回取り上げるのはイングランド・プレミアリーグのエバートンFCです。1888年に始まった世界最古のフットボールリーグに最初から参加した12クラブの1つであり、戦前はディキシー・ディーンの活躍で名が知られているクラブだと思います。南野選手が移籍したリバプール市を共にするチームで、リバプールFCとのダービーは「マージーサイドダービー」で有名です。

コロナ前の売り上げは約500億円前後で、その約7割が放映権の分配で保たれているファイナンス状況です。本拠地はサッカー専用スタジアムのグディソン・パーク。3.5万人近くを収容することができ、1892年から使用されています。それまではリバプールと同じスタジアムを使用しておりましたが、当時のリバプールが賃上げを要求したことでスタジアムを新しく構築した経緯があり、その恨みが未だに残っているとも言われています。リバプールFCのホームスタジアム・アンフィールドとは、公園を挟んで2km(直線距離で600m)ほどしか離れていないグディソン・パークですが、つい先日2021年2月23日に新スタジアム建設計画がリバプール市議会の承認を得ることができ、同年3月26日にはイギリス政府にも承認されました。新スタジアムは現地点から西側のマージー川沿い・ブラムリー・ムーア・ドックに建設される予定で、収容人数は5万2888人に増加。2024-25シーズンに開場を予定しているとありました。現在のグディソン・パークに関しては8200万ポンド(約121億円)をかけて再開発が行われ、住宅や医療施設、レジャー施設などに生まれ変わる予定のようです。

以前からある程度決まっていた話とはいえ、このご時世で投資を行える背景に何があるのか追っていくと、どうやらこのクラブのオーナーにその秘訣(ひけつ)がありそうです。クラブのオーナーはファルハド・モシリというモナコを拠点とする英国とイランの実業家で、元々はアーセナルの株主だったと現地では報じられていました。この実業家気質が財テク手腕を発揮していると想像しますが、ポイントはこのクラブがイングランドでも有数の福利厚生が手厚いクラブだという部分です。選手だけでなく、社員・スタッフにサポートがなされているクラブとして有名で、その手厚さは地域との密接なつながりとなっています。つまり、「people’s club」と現地では言われているとのことですが、まさに応援したくなるような、むしろ地域の人々がこのクラブを応援しなければならないと思わせるようなクラブの姿勢・活動がこのクラブの基盤になっており、そういった積み重ねが今日のファンとの強固な関係値を保持していると言えます。Jリーグもなにかそういったピッチ外の部分での取り組みが、このコロナショックを乗り越えた先の新しいクラブ作りにヒントになるのではないでしょうか。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)