今回は移籍マーケットの話題の中心にもなったパリ・サンジェルマン(PSG)と、フランスリーグを簡単にのぞいてみたいと思います。今夏、フランスのPSGがレアル・マドリードとバルセロナというスペインを代表するビッグクラブの両キャプテン(DFセルヒオ・ラモス、FWメッシ)を、共に移籍金ゼロで獲得しました。さらに若き各国代表クラスの選手を相次いで獲得しています。

今まで欧州フットボール界はドイツ、イングランド、イタリア、スペインがリードしてきました。その5つ目となるのがフランスリーグで、比較的新興勢力になります。近年、そのフランスを代表するクラブであるPSGが中東のカタールを財源とする大きな資本をスポンサーにつけるなど、ヨーロッパサッカー市場において勢力を拡大してきています。ただ裏ではリーグの放映権販売に問題が起きているようです。2020年から2024年までの4シーズンの国内放映権80%をスペインの『Mediapro』と年間8億2860万ユーロ(約1035億7500万円)の契約を結んでいましたが、新型コロナウイルスの影響からわずか4カ月間で契約解除。この処遇は未だ決定しておらずの状態が続いているようで、もしこのまま放映権が売れないとなると多額の損失に加え、フランスリーグが全く放送されないという事態になりかねません。その後バルセロナのピケの会社が一部権利取得下との報道がありましたが、金額含めて未発表ということで、決着がついたかどうかは定かではありません。

リーグの苦境は全くもって無関係と言わんばかりに、PSGはメッシ、セルヒオ・ラモスを筆頭に、GKジャンルイジ・ドンナルンマをミランから、MFジョルジニオ・ワイナルドゥムをリバプールから、DFアクラフ・ハキミをインテルからと、各国のスター選手を相次いで獲得。年俸総額は1億5700万ユーロとも報道されており、日本円にして5選手で200億円近くにも達する状況です。ここに既存の選手を加えると、総額で人件費は450億円にも達するという状況で、一体このご時世にどこからそのお金が出てくるのかという金額です。

フランスリーグ自体には、クラブの収支を見ているフランス財務監査機関である経営監視委員会(DNCG)という外部機関が設置されており、かなり厳しい管理下にあるということですが、「DNCGが関心を持っているのは、クラブが破産しないことだけである」と現地で報道されていることもあり、コロナ禍のこの1,2シーズンはクラブそのものにとっては全く影響にはならないという面もあるようです。PSGはこの夏に巨額を投下して選手を獲得し、一時的に戦力を大幅に増加しつつ、シーズン途中の冬の移籍市場で一部選手を売却することで全体ボリュームを調整するというプランだと推測されています。シーズンの財政報告を行うのはシーズン終了後になりますから、この手法は一見問題なさそうに見えます。しかしバイエルン・ミュンヘンのヘルベルト・ハイナー会長は「私は(PSGが)ファイナンシャル・フェア・プレーを順守しながらどのようにやっているのかいまだに理解しようと試みているが、理解しきれていない。PSGがアップグレードする一方で、我々はUEFAのルールとやっていける方法を慎重に吟味しながらやっており、当然これを順守するのであるが、他のクラブも同様にやっていると想像している」 とコメントするなど、PSGの手法に対しては疑問を呈しています。

もしPSGがもくろむようにシーズン当初に大きな補強をしつつシーズン途中で整理する手法で編成していくやり方が認められるのであれば、今後他クラブも同様の手法を取ることは十分に考えられ、それこそ移籍マーケットでは実現性のない巨額な金額のみがメディアで飛び交うマネーゲームが頻繁に行われることになります。地方の小クラブは当然そのようなことはできませんし、もちろん巨額投資した選手がけがなどによって簡単に不良債権と化してしまう事態も十分に考えられ、そうなるとリスクだけが高いビジネスとなり、リーグのバランスが崩れてしまいます。競争力が下落するだけでなく、リーグそのものの魅力が失われかねません。フットボールはお金では買えないと言われてきましたが、果たして今回のPSGの大補強が実ることはあるのでしょうか。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)