W杯カタール大会は、中国のスポンサーが席巻した大会でもありました。2023年のアジアカップはカタールでの開催が決定。これだけでなく、中東ではスポーツの大規模イベントが数多く計画されています。2030年には夏季アジア競技大会がカタールで、2034年にはサウジアラビアで開かれることも決定しています。2036年には(過去2回失敗している)夏季オリンピック招致も目指すと報じられ、この大会にはエジプトやトルコも注目しており、とにかく中東のオイルマネーとも言える巨額資金が攻勢を強めているように見えます。

この動きに触発されるかのように、サウジアラビアが台頭。中国が手を挙げているとされる2030年のサッカーW杯開催に立候補を目指していると現地では報じられ、他にも2030年の万博開催にも立候補。マンチェスター・シティーグループを形成するアブダビ、PSGを中心に形成するカタール。そして先日、ニューカッスルを買収し、総額300億円とも言われる高額でクリスティアーノ・ロナウドを獲得したサウジアラビアが新たなグループを形成しています。

中国・習近平氏のサッカー熱がかすむほどの中東の勢いが今目の前にきているわけなのですが(中国のスポーツ熱はコロナでそれどころではないといった感じに見えたりもする)、この中東の動きをいち早く察知し、リーグとして動いたのがリーガのテバス氏ではないでしょうか。国内で下火どころか開催の意味合いさえ問われ始めていたカップ戦を中東開催に変更。リーグとしての動きだけでなく、スペインサッカー協会も巻き込むことで批判も抑え込むことに成功しました。(資金不足ともいえる組織に対して恩義を売った形をとった)。

スペインは歴史的に東ではなく西側を向いて来ました。スペイン人のコロンブスがアメリカ大陸を発見した一方で、東側に位置するローマ帝国、イスラム王朝などがスペインにとって脅威でした。リーグの放映権販売にお付き合いするスペインから見て東側諸国が少ないのは事実で、その中でフットボールビジネスとはいえ東側を向いたことは歴史的です。バルセロナは楽天とのパートナーシップでいち早く東を向いていたかもしれません。リーグ全体としての視点からすると、現在行われているスーペル・コパの権利をいち早く売却することで中東地域との関係を築き上げる第1歩を踏み出しました。

そのスーペル・コパですが、今大会は主催であるのRFEF(スペインサッカー連盟)はサウジアラビアサッカー連盟から4000万ユーロ(約56億円)の収入を得るとされています。50%の2000万ユーロがRFEFの収入になり、先日引退を表明したジェラール・ピケが代表を務めるコスモス社がサウジアラビアサッカー連盟との仲介手数料として400万ユーロ(約5億6000万円)を受け取るとされており(実質RFEFには1600万ユーロ、ピケの会社に400万ユーロの配分)、 残りの2000万ユーロが各クラブに支払われる賞金と大会運営費となります。優勝チームは300万ユーロ(約4億2000万円)、準優勝チームには200万ユーロ(約2億8000万円)が支払われます。これ以外にベスト4に進出した4チームにはそれぞれ80万ユーロ(約1億1200万円)が支払われることになっておりますので、優勝すると総額で380万ユーロ(約5億3200万円)が支払われることになります。

今大会でいくと、バレンシアやベティスがベスト4敗退チームとなるわけですが、その2チームよりもイベント契約仲介を行ったジェラール・ピケの会社の取り分が多い点や、結局はレアル・バルサが良い思いをするだけ、といった批判はあるものの、そもそもこれまではここまでの賞金は出てなかったわけで、2019年にサウジアラビアとの年間4000万ユーロ(×3年=合計1億2000万ユーロ)の契約を勝ち取ったことが評価されるべきであることは間違いありません。

中東オイルマネーの力は、W杯を優勝に導いた今が一番高価値とされるメッシのサウジアラビア移籍の話も出るほどの勢いがあり、今後しばらくは中東中心のスポーツ界となるのでしょうか。2030年W杯開催に手を挙げている中国がコロナで勢力が薄まりつつある今、中東優勢の構図はしばらく続くのかもしれません。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)