メッシのプレーに鳥肌がたった。先制点のPK。どれだけの技術と精神力があれば、あのキックができるのか。相手は今大会屈指のGKリバコビッチ、ミスをすれば流れは一気にクロアチアに傾く。それでも、シュートが浮くことが多く扱いが難しい今大会のボールを手なずけ、強烈なキックでゴールに突き刺した。

さらに驚いたのは3点目のアシスト。マークについたクロアチアDFグバルディオルを1発の切り返しで置き去りにした。やり方こそ違うが、昔のダイヤモンドサッカーや今大会NHK中継のオープニングで使われる「クライフターン」のような切れ味だった。

アルゼンチンが、いよいよ「本気」だ。初戦でサウジアラビアに敗れるなど不安視されたが、ここに来て初めて3点差の完勝。相手の誇る不屈の闘志を喪失させた。シュート数は相手の12本に対して10本だが、枠内シュート数は8本対3本と圧倒。勝利への執念と集中力が一段上がった。

メッシは長い間「代表では輝けない」と言われてきた。クラブでは最高の成績を残しても「代表のメンタルに合わない」からだ。13歳の時に下部組織に入ったバルセロナで育ち、すっかり欧州風になった。性格が温厚なのだ。時には感情的になることもあるが、基本は「優等生」。性格が破天荒だった「問題児」マラドーナとは対照的だった。

それが、準々決勝のオランダ戦では審判に文句をつけ、相手監督を挑発。感情を爆発させた。よくも悪くも「すごみ」が増した。一昨年亡くなったマラドーナがスタンドに現れることはないが、ピッチのメッシがマラドーナに見えてきた。

86年メキシコ大会の優勝時は「マラドーナと10人の戦士」だった。マラドーナに自由を与え、10人はマラドーナのためにハードワークした。11人の連係が必要な近代サッカーでは難しいとされていたが、今回のアルゼンチンはメッシのために10人が働く。闘牛士ケンペス並みの“ゴリゴリ”ドリブルで2点目を決めたアルバレスは「メッシがアイドルだった」という。そんな若い戦士に支えられ、サッカー界最後の「10番」が輝く。

「メッシはマラドーナを超えられるか?」と世界中が注目する。「技術的にはすでに上」という声の一方「社会的な影響力で劣る」との見方もある。ただ、間違いないのは「W杯優勝」の有無。天国の「神の子」に見守られて優勝した時、新しい「神の子」が誕生するかもしれない。

クロアチアに勝利し、ガッツポーズを見せるアルゼンチン・メッシ(撮影・パオロ ヌッチ)
クロアチアに勝利し、ガッツポーズを見せるアルゼンチン・メッシ(撮影・パオロ ヌッチ)
クロアチアを破って決勝進出を決め、クロアチアのモドリッチ(右)と健闘をたたえ合うアルゼンチンのメッシ(中央)=ルサイル(共同)
クロアチアを破って決勝進出を決め、クロアチアのモドリッチ(右)と健闘をたたえ合うアルゼンチンのメッシ(中央)=ルサイル(共同)
【イラスト】W杯通算得点ランキング&通算出場ランキング
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