7日の日本代表シリア戦で中盤3人がガンバ大阪組で形成される時間があった。中盤の底に井手口陽介(20)、右に今野泰幸(34)、左に倉田秋(28)という逆三角形。後半8分から今野が下がるまで10分間ほどだったが、A代表デビューとなった井手口にとっては身近な先輩とプレーできたことで、大舞台でも平常心で臨めたのではないだろうか。

 代表の中盤が「G大阪トリオ」。これで必然的にG大阪の中盤争いは、代表の中盤争いに割って入っていけなければならないほどレベルの高いものだということが分かる。この状況で闘志を燃やしているのはG大阪のU-20(20歳以下)日本代表MF市丸瑞希(20)。先月5月に開催され、16強止まりだったU-20W杯ではボランチとして3試合に出場し、持ち味のタテパスが光った。

 今季、所属のG大阪では公式戦出場ゼロ。ベンチ入りもACLのプレーオフ・ジョホール・ダルル・タクジム戦と1次リーグ江蘇戦(アウェー)の2度のみという状況に置かれている。だが、U-20W杯では、試合勘の無さをみじんも感じさせないほどチームに欠かせない存在となっていた。

 U-20W杯1次リーグイタリア戦。市丸がクラブでも代表でも仲間のMF堂安律(18)へロングパスを送ると、堂安がドリブルで4人かわして同点弾を挙げた。もちろん1人でゴールまで持って行った堂安は素晴らしいが、堂安自身試合後にこう話した。

 「パスが(足もとじゃなく)前だったので『前を向け、行け』というメッセージだと思った。『仕掛けろよ』と」

 市丸の意図は伝わっていた。G大阪ジュニアユース時代からともに戦ってきた蓄積はもちろんある。市丸も試合後「試合終わって、律から『前に行けっていうメッセージ分かったで』と言われた。さすがやな、と思った」と話した。メッセージがたっぷり込められた寸分の狂いがないパス。その1本でも市丸の存在価値は十分に証明された。

 だが、G大阪で待つ現実は簡単に乗り越えられるものではない。大黒柱のMF遠藤に代表組3人。市丸自身「まだ自分はA代表レベルではない。その中に割って入っていけるような実力はないと思う」と冷静に分析した。それでも「だからと言って諦めるわけじゃない。練習するしかない。チャンスが回ってこないわけじゃないと思うし、試合に出ないと代表にも呼ばれなくなってしまう」。

 市丸がG大阪ジュニアに入団したのは幼稚園の時。G大阪歴はもう15年になる。小学生の頃は試合の度に厳格な父から帰りの車中で説教された。眠ってしまうと、目が覚めた時に理髪店だったこともあった。「丸刈りにしてこい!」。父から怒鳴られると自分の部屋に帰って、悔しくて悔しくてワンワン泣いた。何度も何度も泣いては立ち上がり、自然と不屈の精神がついていった。

 市丸にとって今は試練の時だろう。だが、幼い頃から築き上げた不屈の精神でここからはい上がってくる市丸を見るのが楽しみだ。【小杉舞】


 ◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)6月21日、奈良市生まれ。大阪教育大を卒業し、14年に大阪本社に入社。1年目の同11月から西日本サッカー担当。担当はG大阪や広島、京都など関西圏のクラブ。U-20W杯韓国大会は現地で取材。甲子園球場での売り子時代に培った体力は自信あり。