第10節終了時で9連勝と、無敗でJ1首位を快走する川崎フロンターレ。クラブの連勝記録とともに“伸び”続けているものがある。

鬼木達監督の「髪の毛」だ。

17日、オンライン上での囲み取材で「髪が長くなっているのは験担ぎなのか」との質問を受けると「切りに行く時間がなくて」と、苦笑いで伸びてきた髪の毛に触れた。新型コロナウイルスの影響で、今季は週に2試合の過密日程を消化している。今月の川崎Fはルヴァン杯も含めると9試合。美容院にいく時間がないのも、うなずける。だが、髪を切りに「行けない」のではなく、自主的に「行かない」理由があった。

鬼木監督が続けた。

「コロナのこととかがあって、気にしているところは正直あります。仲のいい友達の美容院で、20年来の人にやってもらっているので、もし自分に何かあった時にそこにも迷惑を掛けたくないなとか、いろんな思いがあります。少しでも(感染拡大の)可能性を減らせるなら(我慢しよう)というのはありますし、仲のいいところなので対策はしてくれているし心配はしていないのですが、いろんなところで(感染者が)増えてきているので、多少気にしています」。

チームの活動自粛期間中、鬼木監督は選手の自主性と意識の高さに全幅の信頼を置き、オンライン上でのミーティングや自主トレメニューを指示することもしなかった。「コロナの不安な状況などを考えると、それぞれが感染しない、させないことに徹してほしい。選手、スタッフ、奥さん、日常を送らないといけないので、そういう中でもまずは最善を尽くしてほしい。何かあってしまったら本人たちが悪いわけではないので、仕方がないことだと思う。チーム全員で家族として支えていこう」と、自分と周囲を守ることを最優先にするよう呼びかけた。練習再開まで、家族を含めたクラブ全員で感染防止に努めることに集中した。

リーグ再開前日の7月3日、鬼木監督は異例のシーズンのポイントに挙げたのは、「結束力」だった。見えない敵との戦いで欠如しがちな「思いやり」や「配慮」といった部分の大切さを強調した。ここまでの強さの要因には全選手・スタッフの健闘が一番なのは大前提だが、思慮深い指揮官がじっくりと深めてきた絆があることは見逃せない。

19日のC大阪戦に勝利すれば、J1では史上初の同一シーズンに90分試合での10連勝となる。やや伸びたヘアスタイルは日焼けで一層引き締まった表情にも似合っている。連勝と指揮官の髪の毛がどこまで伸びていくのか-。「験担ぎって言われるので、乗っていこうかなと。そんなこと言ったら、今度切れなくなりますけどね」と、ちゃめっ気たっぷりに笑った。こんな原稿を書くと鬼木監督が余計に美容院に行きにくくなるのでは…と心苦しく思いつつも、どこまでロン毛になるのか、ひそかに注目していきたい。【浜本卓也】

◆浜本卓也(はまもと・たくや)1977年(昭52)、大阪府生まれ。03年入社。競馬、競輪担当から記者生活をスタート。静岡支局、サッカー、K-1、総合格闘技、ボクシングなどあれこれ渡り歩き、直近はプロ野球を8年間担当。18年12月にサッカー担当に復帰した。

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

川崎F鬼木監督(2019年11月30日撮影)
川崎F鬼木監督(2019年11月30日撮影)