J1アビスパ福岡のゴールが物議をかもしている。

3日の名古屋グランパス戦で相手に返すはずのボールを奪って決めたフェアプレー精神を欠くゴールだった。得点したクルークスは4日にSNSで謝罪したが、ボールを奪ったルキアンは審判団を批判し「後悔はない」と開き直った。

伏線があった。開始早々に福岡のGKとDFが激しく接触。2人が倒れたままプレーは続けられ、名古屋が先制点を奪った。ルキアンは「審判がプレーを止めるべきだった」と主張。それが、相手のボールを奪うプレーにつながった。「仕返し」をしたわけだ。

ルキアンの非紳士的な行為は許されるべきではないが、1度認められたゴールは取り消せない。福岡の長谷部監督は名古屋にゴールを「返す」ため、選手たちに守備放棄を促して勝ち越し点を献上した。あの時点でベストな判断だった。

過去にも例はある。03年ナビスコ杯では京都のボールを奪ってゴールした大分が守備を放棄して1点を返した。99年のFAカップでは、アーセナルが相手に返すボールを奪ってゴール。勝ったベンゲル監督が終了後に「正しくないことが起きた。やり直したい」と再試合を求め、FAもFIFAもそれを認めた。

対応は試合の状況によって様々だが、フェアプレー精神を欠いた得点にこそ問題はある。確かにルール上は制限されないし、審判もゴールを認める。しかし、だからと言って許されるものではない。それが「仕返し」なら、なおさらだ。

サッカーのルール(競技規則)は17条までだが「最も大切なのは18条」と言われる。「常識」や「慣習」「フェアプレー」だ。ルールがないとスポーツは成立しないが、ルールだけを守っていても不十分。だからこそ相手を思う「リスペクト」が重要視される。

相手を思いやってボールを外に出す。そのボールを再び相手を思って返す。選手の清々しいプレーと観客の拍手は、W杯でも見られる光景だ。そこで子どもたちはサッカーの素晴らしさを知り、フェアプレーを学ぶ。福岡のゴールを、子どもがどう見るか。Jリーグは常に模範を示す場であってほしい。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

3日、名古屋戦の前半、「紳士協定」を破って同点ゴールを決め指を突き上げながら駆け出す福岡ジョルディ・クルークス(左端)
3日、名古屋戦の前半、「紳士協定」を破って同点ゴールを決め指を突き上げながら駆け出す福岡ジョルディ・クルークス(左端)
3日、名古屋戦の前半、福岡ジョルディ・クルークス(右)は同点ゴールを決める
3日、名古屋戦の前半、福岡ジョルディ・クルークス(右)は同点ゴールを決める
3日、前半、両監督の話し合い後に勝ち越しゴールを決める名古屋・永井謙佑
3日、前半、両監督の話し合い後に勝ち越しゴールを決める名古屋・永井謙佑
3日、名古屋戦の前半、福岡ジョルディ・クルークスの同点ゴール直後、ピッチでもめ合う両軍選手たち
3日、名古屋戦の前半、福岡ジョルディ・クルークスの同点ゴール直後、ピッチでもめ合う両軍選手たち
22年9月3日、福岡対名古屋 前半、宮(左から2人目)と交錯して倒れる福岡GK永石
22年9月3日、福岡対名古屋 前半、宮(左から2人目)と交錯して倒れる福岡GK永石
22年9月3日、福岡対名古屋 前半、宮と交錯し、担架で運ばれる福岡GK永石
22年9月3日、福岡対名古屋 前半、宮と交錯し、担架で運ばれる福岡GK永石