18年は日本女子サッカー界に新たな勲章が加わった年だった。池田太監督(48)率いるU-20女子日本代表が8月に行われたU-20女子ワールドカップ(W杯)フランス大会で初優勝を飾った。これで11年W杯ドイツ大会、14年U-17W杯コスタリカ大会に続き、女子で史上初めて全3カテゴリーのW杯を制覇する偉業を達成。選手たちから“熱男”と呼ばれ親しまれた池田監督は、若きなでしこたちをどのようにまとめ、引きつけたのか。その話を聞いた。

きっかけは無意識なしぐさだった。試合前のミーティング。選手の前に立った池田監督は、サッカーで世界と戦えることの喜びや、お世話になった人へ感謝することの大切さなどをストレートに語りかける。そんな熱弁をふるいながら、左手のひらに何度も拳を打ちつけた。これが「フトシポーズ」。指揮官の言葉はもちろん、このしぐさも選手たちの頭の中に強烈に残った。

U-20W杯から帰国後の優勝報告会見では、MF長野風花(19)が大会中のミーティングで監督が泣きながら「俺はこのチームが大好きだし、まだまだこのチームで戦いたい」と話したことを明かした。包み隠すことのない熱い気持ち。それが“熱男”と呼ばれる由縁となった。プレー面だけではなく、時には合宿などでの生活面にも話は及ぶ。選手の気持ちが緩んでいると感じた時は「自分たちで自分たちを注意できないグループは本当に優勝できるのか」と問いかけたこともあった。

池田監督は笑いながら振り返る。「ミーティングの時に、俺が話しながらこう(手のひらに拳を打ちつける)やってるんだって。それを見ていて。練習とかでは、ズボンにシャツを入れていたら『シャツインしてる~』みたいな。選手はよく見ていました」。選手からのイジりにも穏やかに対応する。そんなやりとりの繰り返しもあり、“熱男”はさらに親しみを持たれるようになった。

2人の娘の存在も大きかった。96年に浦和レッズで現役を引退し、指導者に転身した。16年までは浦和やJ2アビスパ福岡でトップチームのコーチを務めるなど男子の指導に励んでいたが、17年1月に翌年のU-20W杯出場を目指すU-19日本女子代表監督に就任することが発表された。初めての女子の指導で、相手は10代後半の年ごろの女の子。そこでイメージにあったのは、今年で22歳と20歳になる2人の娘と過ごした時間だ。「参考というか、あの年代の雰囲気は日常にあったので、構えることはなかった。まだまだエネルギーはいっぱいあるし、社会性も身についてくる時期。(チームに)大学生も高校生もいましたけど、立ち上げの時に『世界一になりたい』という目標をずっと言っていたのが強いので、それぞれがいろんな生活環境だったけど、まとまりはよかったです」。

選手から“熱男”というホットワードを贈られることになったが、池田監督からもプレーに関するチームだけの共通言語を提案していた。速い弾道でGKとDFの間に蹴り込むアーリークロスを意味する「なでクロ」や、相手ゴール近くまでボールを持ってえぐった際にシュート性の速いクロスボールを蹴る、イチかバチかを略した「イチバチ」など、その種類は多岐にわたる。目的は選手間でそのプレーの具体的なイメージをわかりやすく共有するため。ミーティングで映像を確認し、ネーミングは選手の投票で決定したといい、池田監督は「ボツネタもいっぱいありますよ」と笑う。試合中のピッチでもその言葉は飛び交っており、U-20W杯の舞台でも「なでクロ」からゴールが生まれるなど、見事に結果にも結びつけた。

19年はA代表がW杯フランス大会に臨み、20年には東京オリンピック(五輪)がせまっている。U-20W杯を終えた世代の選手たちがこの先に目指すのは、もちろんA代表入り。11月の親善試合ノルウェー戦にはU-20W杯組から長野、DF南萌華、MF宮沢ひなた、遠藤純の4選手が招集され、12月のトレーニングキャンプにはDF北村菜々美、高橋はな、MF林穂乃香、宮川麻都、FW宝田沙織、植木理子の6選手が選出。教え子たちは頼もしく巣立っていった。池田監督は「揉まれて経験して、自分の力を出してほしい。(A代表に)行ってできることもあるだろうし、何かを感じて気づいてくれれば、選手たちにも監督にもプラスになると思う」。父親のようなまなざしで語る。遠くからでも、その熱いエールはきっと届いている。【松尾幸之介】

◆池田太(いけだ・ふとし)1970年(昭45)10月4日、東京都小金井市生まれ。埼玉・武南高では全国高校総体4強、全国高校サッカー選手権8強進出に貢献。青学大を経て93年に浦和へ加入した。96年に現役を引退し、指導者へ転向。97年から浦和ユースやトップチームのコーチなどを歴任し、12年に当時J2の福岡のトップチームヘッドコーチに就任。17年から翌年のU-20女子W杯フランス大会出場を目指すU-19女子代表監督に就任し、同年のU-19女子選手権で優勝。翌年8月のU-20W杯でもチームを優勝に導いた。11月にはU-17女子ウルグアイ大会に臨むU-17女子代表も率いた。現在はU-18女子代表監督を務めている。