【アブダビ(UAE)1日】日本(FIFAランク50位)の2大会ぶり5度目のアジア制覇はならなかった。カタール(同93位)との6戦全勝同士の決勝は、今大会得点王に輝いたカタールFWアリのオーバーヘッドによる先制弾など前半に2失点。後半にMF南野拓実が今大会初得点を決めたが、その後にPKで失点。あと1歩及ばなかった。森保一監督(50)は就任後12戦目で初黒星を喫した。カタールは初優勝。

 

後ろ手を組んだまま、森保監督が立ち尽くした。MF南野の今大会初ゴールで1点差に迫り、追い上げムードが高まった後半35分ごろ、カタールのCKをヘディングした相手と競り合ったDF吉田主将のプレーがビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR=ビデオ判定)となった。結果はハンドでPK。3点目を決められると、大騒ぎする相手の光景を見つめるしかなかった。就任12試合目にして初の前半2失点。決勝の舞台で迎えた逆境を完全にはね返す力は、まだ備わっていなかった。

今大会は「成果」と「成長」の二兎(にと)を追った。W杯ロシア大会のメンバーに伸び盛りの若手を加えた。厳しい戦いは覚悟の上。融合を図りながら頂点を目指すことを掲げた。「和」の心でチームを束ねた。コーチとして戦った昨年のW杯ロシア大会、西野朗前監督の姿が目に焼き付いている。ハリルホジッチ監督の電撃的な解任を受け緊急登板。96年アトランタ五輪でブラジルを破り、J1最多270勝の名将が選手を観察しながら尊重し、信頼し、短期間で日本代表をまとめ、16強へ導いた背中から痛感したことがあった。

森保監督 選手のパフォーマンスだけではなくて、内面の部分も見ていらっしゃった。日本人らしさと日本人の良さを出して世界に挑むということを言われてチーム作りをして戦った結果、チームも選手もスタッフも充実した戦いができた。

アジア杯中、声を掛ける回数が多いのは控え組の方だった。試合翌日の主力がいない練習を鋭い視線で見つめた。起用法に疑問を持った選手の声にも耳を傾けた。準決勝イラン戦では負傷して担架で戻ってきたMF遠藤に「よく戦ってくれた。この試合、勝つから」と声を掛けた。長友は「監督のために、チームのために勝ちたいと思わせるのは監督の人間性だと思います」。試合後にはDF槙野やMF乾ら控え選手がロッカー室をほうきで掃き、洗濯物をまとめた。乾は「W杯で圭佑君(本田)だったりマキ(槙野)もそうですし、そういうの俺は見てきました。すごく出ている選手の責任感を俺は感じていました」と言った。「融合」と「成長」は、着実に進んでいた。

しかし、アジア制覇の「成果」は手に出来なかった。6月には南米選手権が控える。攻守で、選手層で、まだまだ課題はある。それでもロシアから引き継いだ「和」の心が組織を深め、大輪を咲かせるための芽吹きは見せた。【浜本卓也】