新型コロナウイルスの感染拡大で活動自粛が続く中、日の丸を背負い戦った日本代表がいる。日本サッカー協会(JFA)が本年度から代表カテゴリーに加えた「e日本代表」だ。先月21日に開幕した国際親善試合「StayAndPlay eFriendlies」に、FW岡崎慎司(34=ウエスカ)がe代表ウェブ・ナスリ(20=鹿島)と参戦して話題を呼んだ。大会後、JFA須原清貴専務理事(53)がウェブ上で取材に応じ、新たな分野に対する魅力と期待を口にした。

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勝負は一瞬で決した。3-3の後半39分。FW岡崎はニアに走り込みながら相手DFのマークをバックステップで外し、一気にゴール前へ。左クロスに頭から突っ込んだ。右コーナー付近で拳を何度も突き出して喜び、ほえた。PKに続くこの日2得点目が決勝点となり「手が震えて全然思うようにいかなくてめちゃくちゃ焦りました。画面には映っていないと思うけどめちゃめちゃ興奮しました」と興奮を隠せなかった…。

足でなく、手が震えて?

これはe日本代表-マレーシア代表戦で岡崎が操ったスペイン2部ウエスカFW“岡崎”の話。この親善試合は新型コロナ禍で外出自粛を強いられる中、試合のライブ観戦を楽しんでもらおうと企画されたもので、岡崎はJFAの“招集レター”に「誰もいないならやります!」。「JFA eスポーツアンバサダー」としてスペインの自宅からマレーシア、チャイニーズタイペイ、シンガポール戦に出場した。ナスリが出た第1試合との合計スコアで競われる代表の戦いは1勝2敗で幕を閉じた。

e代表の初陣に、反響は大きかった。須原氏は「サッカーとして普通に面白いねとよく言われた。やはりライブはいい。どんな過去の名勝負でもライブには勝てない」と分析した。

国際サッカー連盟(FIFA)が大会を展開するのもあり、JFAは今年からe代表のカテゴリーを新設した。ビジネス面での利益やフィールドのサッカーへの誘導はあくまで「副産物」。須原氏は「純粋に楽しんでほしい」とeプレーヤー人口の拡大を歓迎し「前後半6分ずつの12分でとてつもない集中力を求められる。手と指の動き、コンディショニングやトレーニングもそう。ものすごく高いレベルの心と体を持っている。魅力あるスターがいて試合を見て面白い、となって、見たいという人たちを作っていかないといけない」と象徴となる選手を待望した。

KADOKAWA Game Linkageによると、19年の日本eスポーツ市場規模は前年比127%の61・2億円で、ファン数(試合観戦、動画視聴経験者)は同126%の483万人。昨年の茨城での国体では文化プログラムとして開催された。須原氏は「画面上での展開の面白さは(フィールド上の)サッカーそのもの。リフティングはできないかもしれないけど、コントローラーを触らせたらものすごくうまいとか、全く違う才能を持った人がサッカーという共通軸を持って楽しんでもらえるのが面白いし、広がりが出る」と伸びしろを見る。

新型コロナ禍で自由に外出できない今、注目度はさらに増している。自宅でプレーと観戦の両方を楽しめる強みを生かし、一般参加の予選会を開催。勝ち上がった人が現役選手やe代表選手に挑戦する大会の企画など、多くのサッカーファンを楽しませる計画を巡らせている。「最初のスタート地点は昔のスポ根ではなくて、いい意味での“緩さ”があった方がいい。そういう文化を作りながらやっていければと思う」。世界へとつながる画面越しに、無限の可能性を見いだしている。【浜本卓也】

◆須原清貴(すはら・きよたか)1966年(昭41)6月18日生まれ、岐阜県出身。慶大法学部卒業後、91年に住友商事へ就職。00年に米ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。01年ボストン・コンサルティンググループでコンサルタントを務め、03年1月にはCFOカレッジを設立し代表取締役社長に就任。GABA取締役副社長兼COO、キンコーズ・ジャパン代表取締役社長兼CEO、ベルリッツ・ジャパン代表取締役社長、ドミノ・ピザ・ジャパン代表取締役兼COOなどを歴任後、18年3月から現職。息子の影響でサッカーに興味を持ち、3級審判員資格を保有している。