22年ワールドカップ(W杯)カタール大会を安心、安全に運営するための心臓部がドーハにある「アスパイア・コマンドセンター」だ。W杯全8スタジアムの危機管理を一手に担う司令室の役目を果たす。日本のスポーツ紙として初めて同センターの取材を許可された記者が同センターに潜入。スタジアムでの事故、事件を未然に防ぐ世界初のシステムをリポートする。

W杯成功のカギを握るのがハリファ国際競技場に隣接する「アスパイア・コマンドセンター」。W杯で使用する全8スタジアムを管理し、すべてのシステムを遠隔操作できる世界初の司令室だ。関係者は設立のための費用は明かさなかったが、8つのスタジアム単位でシステムを構築するよりも安価だという。

各スタジアムの状況を知るために欠かせないのが、全8スタジアムに設置されている計1万5000台のCCTV(防犯カメラ)。死角は皆無で、どんなわずかな異常も見逃さない。少しでも不審な人の動きがあればコマンドセンターに通知される。事件、事故に対処するのはもちろんだが、それらを未然に防ぐことが第一に考えられているのだ。

W杯カタール大会組織委員会広報担当エグゼクティブ・ディレクターのファトマ・アルヌアイミ氏は「我々は6月の大陸間プレーオフ以前にも、2度のクラブW杯、アラブ杯も開催しました。W杯へ向けたシミュレーションもできたし、準備は万全です」と自信を見せている。

これまでの試合ではスタジアム内の人の流れが1カ所だけ微妙に遅い場所を発見。入場の際にチケットをスキャンする機器が規定の角度で設置されておらず、スキャンに時間がかかったことが原因だったということまですぐに判明した。

コマンドセンターではセキュリティー面だけでなく、ファンが快適に観戦できるようにスタジアムの温度の調整なども行う。スタジアム全体ではなく、気温が高すぎる(低すぎる)場所をピンポイントで修正することも可能だ。

アルヌアイミ氏は「メディアのニュース等で語られる中東はいつでもネガティブなイメージで、誤解があるように思う。ファン、メディア、チームを歓迎することでアラブのホスピタリティー(おもてなし)を示したい。良い思い出をつくってもらい、この地域への理解を深めてもらえれば」という。アスパイア・コマンドセンターの力がフルに発揮されれば、ファンの思い出に残るW杯カタール大会になるのは間違いない。【千葉修宏】