【ドーハ4日=佐藤成】サッカー日本代表のアジア制覇への旅路が終わった。4強入りをかけた戦いでイランに1-2で敗れ、過去最低タイの準々決勝敗退。FIFAランキング17位はアジア最上位で「史上最強」などとうたわれながら、5試合を3勝2敗、計12得点の8失点で散った。“優勝候補”はなぜあっさり敗れたのか。現場で感じた3つの敗因は「熱量」「采配」「ピッチ外」。それぞれのテーマごとにひもといた。

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【熱量】

若きDFリーダー冨安はイラン戦後、バッサリ切り捨てた。「正直、熱量を感じられなかった。物足りなさを感じた」。熱量不足への不安は開幕からあった。アーセナルで欧州チャンピオンズリーグ(CL)を戦う冨安は、大会前にクラブの公式戦と重なるアジア杯の開催時期について疑問を呈していた。同じくRソシエダードでCLが控える久保は冗談めかしながらではあるが「後ろ髪引かれるどころじゃないですけどね」と思いを明かしていた。

これは日本選手のレベルアップに起因するところもある。CLや欧州リーグでプレーする選手が増え、世界トップレベルのメンバーとの激しい競争が待っている。1カ月以上クラブを離脱すれば、その間に居場所がなくなっている可能性もある。森保監督も「欧州は完全シーズン中。自チームのことは気になっていると思う」とおもんぱかった。J開幕前の国内組も同じで「そういった中でやる大会は難しいんだなという感じはしますね」とも言った。

イランに敗れた後、主将遠藤が「優勝できるだけの力が別になかったわけではないですけど。こういう大会は、やはり勝つのは難しい」とどこか淡々と負けを捉えた。目の前の試合を100%の力で戦っていたのは間違いない。ただ一方で、日本を下したイラクとイランは控え選手がピッチに乗り出す勢いで試合に入り込み、試合終了と同時にまるで優勝したかのように喜んでいた。大会にかける「熱量」では、完全に相手に上回られていた。

 

【采配】

決勝で敗れた5年前の前回UAE大会では、主力が固定化され途中出場で活躍する選手がいなかったことが敗因の1つに挙げられた。リードを許した決勝のカタール戦では終盤まで交代枠を1人しか使え(わ)なかった。

翻って今大会。選手層は格段に厚くなった。準々決勝イラン戦は、決勝トーナメント(T)1回戦からスタメンを3人変更。前半は大会を通じて一番といっていいほどの出来だったが後半は一転。ロングボールで押し込まれた。改善を試みて1-1の同22分にMFの三笘と南野を投入したが機能せず。森保監督が「交代カードをうまく切れなかったのが敗因」と認めたように、後半ロスタイムの失点後に慌ててFWの細谷と浅野を入れるまで何もできなかった。決勝点となったPKにつながる反則など、精彩を欠いたDF板倉は「敗因は自分にある。代表選手としてピッチに立つ資格はない」と責を負ったが、そこまでに至る采配面で、森保監督は5年前と同じく失敗を繰り返したといえる。

負傷した旗手や離脱した伊東の不在も影響したか-。少なくとも90分間で勝ちきるための采配はなく、結果的に次回26年W杯に向けて、「最後まで勝ち抜く」経験を積む最後の機会を逸した形になった。

 

【ピッチ外】

「ピッチ外」に振り回された大会でもあった。1次リーグのイラク戦敗戦後、GK鈴木の元にSNSを通じて差別的発言が届いた。海外メディアからも強い関心が向けられ、監督、選手には多くの質問が飛んだ。そして、決勝T1回戦バーレーン戦当日の伊東に関する性加害疑惑報道だ。1度離脱が決まるも選手たちからの声をきっかけに残留に向けた調整がなされたが、最終的に離脱。チームはその“二転三転”に振り回された。森保監督は「誰かがいなくなったからと言って機能しなくなるチーム作りはしていない」としたが実際、イラン戦で「伊東がいれば」と思う場面はあった。プロである彼らのプレーに「ピッチ外」がどの程度影響したかは分からない。結果論でしかない。しかし、勝利を目指して細部にこだわる上で、不必要な要素であったことは間違いない。数年後に大会を振り返った時、試合内容より先に「差別的発言」「性加害疑惑報道」が思い浮かんでしまうのは、残念でならない。