監督として2016年のU-23アジア選手権(今大会の前身)で優勝に導き、リオデジャネイロ五輪(オリンピック)の出場権を獲得した手倉森誠氏(56=タイ1部BGパトゥム・ユナイテッド監督)が28日、パリ切符に王手をかけてU-23アジア杯の準決勝イラク戦(29日深夜2時30分)を迎える、日本と大岩剛監督(51)にエールを送った。

8年前の最終予選も今回と同じ集中開催で、準決勝で、ドーハで、相手はイラクで、後半47分14秒の決勝弾(2-1)で突破。左足で蹴り込んだMF原川力や先制点のFW久保裕也、現A代表主将で今やリバプールのMF遠藤航ら、あの「ドーハの悲劇」が起きた1993年(平5)生まれの選手が主力だった世代だ。

「決定ゴールが後半のロスタイム。22年前はワールドカップ(94年米国大会)を阻まれ、泣かされて、自分たちの時は勝って、リオへの門が開いて。ドラマのような条件で歓喜へ歴史を塗り替えた。しびれたね。敗退していれば、W杯2大会連続(18、22年)の16強から、次は8強、さらには優勝を目指すA代表の進歩を遅らせていたかもしれないし、自分も監督人生を懸けていた」という剣が峰から「反骨心」で生還した。

6大会連続10度目。翌朝の日刊スポーツに「つないだ」の見出しが躍ったことが当時の期待値を物語る。11、13、15年のU-20W杯を全て逃した「谷間の世代」を任され、鍛えたが、自身も含め「手倉森では無理」と常に批判された。開幕の前から諦めの声すら聞こえてきたが「“手ぶら森”にならなくて良かった(笑い)」。この大会を6戦全勝で初制覇して見返した。

だからこそ、大岩監督の重圧が誰よりも分かる。勝って“天狗ら森”になるより「韓国に負けたって、教訓にすればいい。道は途切れていないんだから」。0-1で、五輪予選では28年ぶりに日韓戦の黒星を喫した一方、大岩ジャパンは先発7人を入れ替え、第3GKを除く23人中22人が勝負のトーナメントを前に、ひりつくピッチを経験した。

今大会は初戦から応援している。「主力のDF西尾(隆矢)選手が初戦でいきなり退場したけれど、その分、他のメンバーが成長してDF木村(誠二)選手も2得点。層の厚さを示してくれた」。手倉森氏も、当時は第1戦から先発を6人→10人→8人と変更。負ければ終わりの準々決勝も「あの時と似ているな」と思いながら映像を眺めていたという。難敵イランと前後半を終えて0-0。延長前半にMF豊川雄太が均衡を破り、MF中島翔哉が2発を重ねて3-0で退けた。

「自分たちも準々決勝まで中2日で、そこから準決勝までが中3日に増えたことを思い出して。『十分回復できるので、まず準々決勝で力を振り絞っていい。延長覚悟でいい。勝ち急ぐなよ』と思いながら今回のカタール戦を見ていたら、大岩監督が冷静にマネジメントしていて、開催国がホームで嫌がっていた。これはPK戦までもつれ込まずに120分で勝つな、と」

手倉森ジャパンは優勝までに10選手で15得点。誰が出ても戦える一体感を武器に、五輪まで駆け抜けた。

「普段通り呼ばせてもらうけど、剛も、覚悟を決めてターンオーバーした。最後に大きなことを成し遂げるために。自分も『(変更)し過ぎ』とか言われたけど、いいんだよ。しなければしないで『しなさ過ぎ』『何で変えねえんだ』と言われるんだから(笑い)」

手倉森氏は現在、タイ・プレミアリーグのBGパトゥムで指揮を執る。22年にはアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で8強に導いた。インドネシアの躍進も肌で感じており、今回も驚きはなかったという。

監督は、韓国の申台龍(シン・テヨン)。16年の決勝で「韓日戦は地球が滅亡するまで続く」と舌戦を仕掛けられ、試合も前半で2点をリードされた宿敵だ。そこで「ムカついた」手倉森氏が、後半にFW浅野拓磨を投入。見事に2得点で応えて3-2で逆転した。

因縁を懐かしみつつ、そのインドネシアが、世界初の10大会連続オリンピックを狙った韓国を準々決勝で撃破したことも、あり得ることだと感じていた。「韓国も日本も欧州組を呼べていない。何が起きてもおかしくない。東南アジアの飛躍もすごい」。日本も、懸かるものが8大会連続となれば「勝って当然」の風潮になるが、懸念を示した。

21年東京五輪4強の世代でも、アジアでは苦戦したからだ。開催国枠を持っての出場だったため事なきを得たが、最終予選を兼ねた20年の本大会で1次リーグ最下位に沈み、まさかの1分け2敗で敗退。あらためて「勝って当たり前ではない」とした上で、イラクとの決戦を前に声を上げた。

「パリ世代を、世界の誰よりも見てきた男が大岩監督。王手でジタバタする必要はない。この世代には、成長に必要な苦難が起こるべくして降りかかる。苦しんで突破してこそ伸びる。自分もそうだったけど、現地からは言えないと思うので、代弁したい。皆さん、信じましょう。真の実力国になるためには、国民のために戦っている代表に『勝って当然』を押しつけるからには、これまでの『勝ったら手のひら返し』から卒業して、応援しましょう」

【木下淳】

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