どこまで仲がいいんだと思う。自他ともに認める、同じAB型の変わり者、楢崎正剛と中沢佑二が同じ1月8日に現役引退を発表した。

日本代表で世界を相手に戦ったGKとセンターバック。守備の名コンビ。お互いの去就について話し合ってはいただろうが、まさか節目が同じ日になるなんて…。ビックリしているはずだ。

2人と縁が深い“日本最強”のホペイロ(用具担当)、J2京都の松浦紀典氏は、本当に寂しそうな声で、ショックを受けていた。

中沢がプロ入りを夢見て、東京Vに練習生として電車で通っていた時は、名門ヴェルディにいた。その後、楢崎率いる名古屋で、長く守護神を支えてきた。

「ボンバーもナラも引退なんて、ショックすぎて、しばらく立ち直れそうにありません」と言っていた。もちろん、プロだから、すでに京都で今季の初仕事を、いつも通りしっかりと終えたところだったのだが。

ホペイロの仕事は、とにかく多岐にわたる。それを松浦氏から何度も教えてもらった。当時の若きボンバーは、おにぎりを持って文字通り手弁当で、練習に通って来ていたという。あまりに一生懸命でいちずな青年ボンバーに、松浦氏は、自動販売機で飲み物を買ってあげ、ハイと手渡すのが日課だったという。今となってはいい思い出だと感慨深げだった。

楢崎は、とにかく「まっちゃんに任せておけば大丈夫」が口癖だった。名古屋でも日本代表でも、ずっと用具から何から、任せっきりだった。

楢崎セットともいうべき、少し大きめの黒いポーチがあった。GKグローブなど、商売道具が丁寧に入れてあり、松浦氏が管理していた。

その中に、化粧品のような、透明の液体の入ったプラスチック製の小さなボトルがあった。よく見ると、テープで「スゴイ水」と貼り付けてあった。

聞けば、試合前に楢崎はおまじないのように、必ずこの水でGKグローブの手のひらから指先まで、内側の部分を程よく湿らせ、感覚を研ぎ澄ませてから戦場であるピッチ、勝負を決するゴールマウスに立っているのだという。

その液体を用意しているのは松浦氏だった。結局最後まで「スゴイ水」の成分も採取地? も「企業秘密です(笑い)」と教えてもらえなかったが、あの安定感あふれるセーブの裏には、こんなおまじないのようなサポートがあった。

松浦氏に2人の共通点を聞いた。「日本代表で活躍するような選手はみんなそうですが、とにかくサッカーに真摯(しんし)に、どこまでも真剣に向きあう選手でした。特にナラとボンバーは際立っていました。絶対に手を抜きません」。ずっとすぐそばで見てきたから、松浦さんも一切手を抜かない。きっと互いに同じプロとして、いい影響を受けていたのだろう。

松浦氏には“大きな仕事”が残っているような気がしている。まだ去就に関する発表はないが、もし、今季も京都でプレーすることになれば、最愛の2人の引退に最もショックを受けていること間違いなしの、あの闘将のメンタルケアだ。

楢崎、中沢とくれば、名トリオのもう1人は“やんちゃな末っ子”、もちろん田中マルクス闘莉王。2人の思いも背負い、存分にピッチで暴れるDFを徹底サポートする仕事も含め、松浦氏に休みはない。【八反誠】